サントリーの新浪剛史氏、楽天の三木谷浩史氏など、多くのリーダーを輩出してきたハーバードビジネススクール。限られた時間の中で最良の解決法を見つけるメソッドをハーバードビジネススクール・竹内弘高教授が大公開!
ハーバードビジネススクール
竹内弘高教授 

ハーバードビジネススクール(HBS)の出身者が卒業後、ビジネスの世界で活躍しているのは、大学院で経営について体系立てて学び、高度な知識やスキルを身につけたからだと考えている人が多いかもしれません。たしかにビジネスの知識やスキルは重要です。しかし、それでは世界のエリートの片側しか見ていないと思います。

グローバル社会で活躍する人の多くは、世のため、人のためという「共通善」を持っています。たとえばある国で事業を行うとき、お金儲けだけでなく何らかの付加価値を与えて、その国の人から「来てくれてよかった」と思ってもらえる事業を展開できるか。そのような意識がないと、グローバル社会で人々の支持を得るのは難しいのです。

共通善を追求するときに欠かせないのが、教養です。アメリカのいい学校では、高校2年生あたりから教養にどっぷり浸ります。たとえば哲学の時間には、デカルトやハイデガーを読んで議論を行います。高校生にとってハイデガーは難解で、本当はよく理解できていないかもしれません。それでもエッセンスを知り、自分なりに考えて議論をしていくことで世界観が奥深いものになっていきます。

一方、日本の高校はどうでしょうか。かつての旧制高校では、学校で直接教わらなくても、哲学論や文学論が活発で、あちこちで青臭い議論が行われていました。しかし、いつからか日本の高校生は受験に追われて、議論する余裕をなくしてしまいました。

ならば大学で教養を学べるのかというと、これも困難です。私の知るかぎり、日本で教養教育に真剣に取り組んでいる大学は数校しかありません。むしろ大多数の大学は、入学の段階で文系と理系に分けて教養と相反する教育を行っています。

その結果、日本の学生は高等教育で教養にほとんど触れないまま社会に出ます。そのことと、日本におけるP・ドラッカーの人気の高さは無関係ではないでしょう。ドラッカーは「マネジメントは教養」と言いました。だから自分には教養が足りないという意識がある人は、会社に入ってから必死にドラッカーを読むのです。

世界のエリートは早い段階から教養を学び、世の中にとって何がいいことなのかということについて真剣に考え、そのうえにビジネスの知識やスキルを積み上げていきます。日本のビジネスマンも、ビジネスの知識やスキルばかりに注目するのではなく、まず教養に浸るべきでしょう。