HBSのプログラムの最近の傾向についても触れておきましょう。
HBSといえば、具体的な事例を教材にして議論を深めるケーススタディが有名です。アメリカの経営学は企業を分析して解を導く科学的な手法が主流ですが、科学的な分析だけでは複雑で多様な経営の現場に対応できず、机上の空論になるおそれがあります。そこでHBSでは事例を通して経営学を学んでいきます。
ここ数年、現実に重きを置く傾向はさらに強まっています。ケーススタディによる疑似体験に加えて、実際に現場に入って肌で体験してもらおうというプログラムが増えてきたのです。
具体的には、1年目に必ず開発途上国に1週間行く現地学習が義務づけられました。たとえばある国に行って、現状を把握して、その国の市場に向けてどのような製品やサービスを開発したらいいのかということをグループで話し合います。
また、2年目の選択コースとしてIXP(Immersion Experience Program)というプログラムができました。これは、もともとハーバードの学生がハリケーン・カトリーナの被災地域にボランティアにいったことがきっかけになってできたプログラムです。私も3年前から、「Japan IXP」を担当。学生たちを東北に連れていき、復興のために企業は何ができるのかというテーマで調査や提案をしてもらっています。
このように現場にどっぷり浸って考えるのは、とても大事なことです。現場に行くと、知っている理論と違うことがいろいろと起こるでしょう。しかし、議論が弁証法で深いものになっていくのと同じで、理論と現実がぶつかりあうからこそ新しい発見ができます。
ちなみに私が副学長を務めているFRMIC(※)でも、現実の経営課題を題材にしています。HBSが現地教育に力を入れ始めたように、今後は現実の問題に即して学ぶスタイルが広がっていくのかもしれません。
※FRMICとは……ファーストリテイリンググループの経営人材を育成するために設立された機関。Fast Retailing Management and Innovation Centerの略。学長はFRグループCEOの柳井正氏、副学長はハーバードビジネススクールの竹内弘高教授。全世界から抜擢されたメンバーが経営課題の解決法を学んでいる。