「勝負は心理戦」は三原の信念である
ところが、皮肉なことに、中止決定後、雨が上がり、太陽が燦々と輝き始めた。
午前10時すぎ、三原宅の電話が鳴った。今度は、巨人監督の水原茂であった。
水原は怒り心頭に発した。
「なぜ、こんなに早く試合を中止するんだ。天気もよくなり、十分にやれるじゃないか」
「ぼくが決めたわけじゃない。グラウンドで立ち会ったのは、球団の人間だ。ぼくは報告を受けただけだよ。だいいち、決定権はコミッショナーにあるんだ」
水原が執拗に食い下がると、三原も向かっ腹を立てた。
「3連勝し、もう君のところが勝つに決まっているじゃないか。あんまりぐだぐだいうなよ」
電話を切ると、三原はにんまりしたという。
彼は自伝『風雲の軌跡』で強調している。
<「勝負は心理戦である」――これは私の考え方だ。信念といってもいい。人が喜ぶことをやったら、相手に勝てはしない。人のいやがることをやって、はじめて心理的に優位にたち、勝機をつかめる>
エース稲尾和久に雨で休息を与え、それから西鉄は4連勝。鮮やかに巨人をうっちゃり、日本一を勝ち取った。いうまでもないが、仰木はこのときの三原の作戦をお手本にしたのである。
“魔術師”と呼ばれ、監督として4回も日本シリーズを制した三原も、現役時代のポジションは、仰木と同じ二塁手であった。
1856試合 988勝815敗53引き分け 勝率5割4分8厘
(文中敬称略)※毎週日曜更新。次回、森祇晶監督