【田原】どういうことですか。

【御手洗】一つはM&Aの必要性が高くなってきたことです。M&Aは機密性が大切です。また急ぐことも多く、社外の弁護士だけに頼っていては機動性を欠いてしまいます。したがって、弁護士が社内にいたほうがスムーズに事を進めやすくなります。ただ、法律問題は毎日あるわけではなく単発的なので、常勤ではなく、社外役員という立場で十分だと判断したわけです。

【田原】もう一人は?

【御手洗】加藤治彦・元国税庁長官にお願いしました。これは昨今大きな問題となっている移転価格税制への対応のためです。

【田原】つまり主な目的は、コーポレートガバナンスのためではないと。

【御手洗】いや、両方です。世間には経営の監視のために社外役員を導入すべきだという論調もあることは承知していますので、同時にそういった役割も担っていただくつもりです。

【田原】なるほど。

【御手洗】コーポレートガバナンスについて言えば、私は社長になってから、「透明度の高い経営」を推進してきました。たとえば、社長直轄の監査部門をつくりましたが、現在約70名の社員がその部門にいて社内監査を担当しています。監査対象に聖域はありません。

【田原】社内警察みたいなものですね。でも、御手洗さんの命令でできた警察でしょう?

【御手洗】いや、私の担当領域も含め監査対象に聖域なしということは、公言していますから。

【田原】役員はどうですか。御手洗さんに文句、言えますか。

【御手洗】いまの副社長は、新入社員のころからのつき合いです。お互いに知り尽くした仲ですから、私がもしおかしなことをしたら彼が絶対に言ってくれます。そこは安心してください。

御手洗冨士夫
1935年、大分県生まれ。都立小山台高校卒。61年中央大学法学部法律学科卒業後、キヤノンに入社。創業者の御手洗毅は伯父にあたる。79年キヤノンUSA社長、93年キヤノン副社長、95年従弟の御手洗肇が急死したため、急遽社長に就任。2006年経団連会長、キヤノン会長に就任。10年経団連会長を退任。12年キヤノンの社長に復帰し、会長兼社長。13年旭日大綬章を受章、日本郵政取締役。14年五輪組織委名誉会長に就任。
田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。県立彦根東高校卒。早稲田大学文学部を卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経てフリーに。幅広いメディアで評論活動を展開。
(村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)
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