「我々は高級車やスポーツカーを作っているのではない」

BMWがブランドのテーマとして掲げているのは「フロイデ・アム・ファーレン(ドライビングにおける歓喜。日本市場では"駆け抜ける歓び")」。以前、東京モーターショーを訪れていたBMWの首脳の一人は、「我々は高級車やスポーツカーを作っているのではない。BMWを作っているのだ」と語っていた。320d M Sportに乗っても、高級感や速さなど、クルマのパラメーターでライバルと競争するのではなく、フロイデ・アム・ファーレンというBMWの世界観への積極賛同者を募るというクルマづくりのスタンスを明瞭に感じることができた。BMWは実用車でありながら、ブランディングとしては完全に趣味の道具の領域にいる。

もちろんBMWのキャラクターに共感しないカスタマーも大量に存在する。また、BMWを買ったものの満足せず、離れてしまうユーザーもいるだろう。自動車メーカーはそういうとき、往々にしてそのことをネガティブに捉え、クルマを改良することでより多くのユーザーを吸引しようとするものだが、BMWは自社のモデルのテイストに興味を持たないユーザー層については最初から見切っており、あえて買ってもらわなくてもいいというスタンスを貫いている。

先進国のメーカーが今後も人件費の高い先進国に拠点を構え続けようとするならば、付加価値の高いクルマづくりを強化することは必須だ。が、安全、燃費、必要十分な走行性能や快適性といったクルマの基本部分以外のところでユーザーに余分にお金を払ってもらうことは容易ではない。その中で、高級、スポーティ、エコ性能といった紋切りのパラメーターを舞台に競争するのではなく、自分の世界を作り上げ、そこにユーザーを引き込むことでイメージを高めることに徹してきたBMWのブランディングの手法は、高付加価値ビジネスの成功例のひとつとしてみることができる。果たして今後もそのブランド力を維持していくことができるかどうか、その行く末も含めて興味深い。

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