「退屈なクルマはつくらない」「値引きしない」で営業利益は前期比3倍。世界で走る車のうち、2%にも満たないマツダ車が輝くためには――。ただそれだけを考え、モノづくりも売り方も刷新した。それは、生き残るための大改革だった。
競合車はない。独自の価値を示す
「10%の熱狂的なファンをつくることで、世界シェア2%を取れば生き残れる会社なのです。いまのマツダは。もちろん、それでいいとは言いませんが……」
マツダ商品本部主査の猿渡健一郎は話す。猿渡は昨年11月21日に発売された新型(3代目)「アクセラ(マツダ3)」の開発責任者である。アクセラは世界販売の3割以上を占める主力車種であり、年間50万台の販売を目指している。
マツダは2013年3月期決算で、5期ぶりに黒字転換。08年9月のリーマンショック以前の、いわゆる“5期ぶり(ゴキブリ)”に業績を好転させた大手企業の一つだ。が、円安といった外的要因だけがマツダを“快走”させているわけではなさそうだ。
スズキの首脳はいまのマツダについて、次のように指摘する。「(ヒット商品を忘れた頃に放つ)“一発屋”だったマツダが、最近は連続してヒット車を出している。スカイアクティブというイノベーション(技術革新)に成功したので勢いがある」。
また、日産自動車の役員は「いまのマツダは近年で最も良好な状態だろう。独自の戦略が奏功している。フォードから離れたマツダには、同じく好業績の富士重工に対するトヨタのような後ろ盾がないのに」と話す。
ライバルも認める好調ぶりだが、為替以外に何がマツダを押し上げているのか。
戦略的には06年から水面下で始まった「モノ造り革新」と呼ばれる、開発、生産、購買、販売といった全社横断の構造改革活動がある。
15年を目標年次と定めて、1ドルが70円台の超円高でも利益を生むためにはどうあるべきか、値引きの必要がない付加価値のあるブランドを構築するためにはどうするべきかなどを、トータルに盛り込んだ活動である。
超低燃費を実現したガソリンエンジンに始まる自動車技術群の「スカイアクティブ」も、「モノ造り革新」の一環で誕生した。06年当時、ライバル各社がハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)といった電動化技術へと一斉に舵を切る中で、マツダは敢えて内燃機関を極める道を選択したのが、振り返ればいまに通じている。