日本の中小企業が生き残る鍵は「オープンイノベーション」と、元橋一之東京大学教授は提言する。オープンイノベーションとは、企業が自社の技術をオープンにし、他社や、大学、国、自治体などと連携してイノベーションを起こそうというものだ。技術や開発テーマを秘密にし、クローズドの環境からイノベーションを生み出そうとしてきた以前のメーカーのあり方とは逆の発想である。そこに活路を見出す神奈川県小田原市の鋳造メーカーを取材した。

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今回紹介するコイワイは、まさにオープンイノベーションによって成長を続ける中小企業です。技術を公開し、認知度を高めることで、大手メーカーの試作開発から、JAXAや、北海道大学との医療器具の開発など新しい分野に領域を広げています。多くの町工場が苦境に立たされているなか、右肩上がりに売り上げを伸ばしています。

コイワイは1973年の創業から40年以上、高温で溶融した金属を型に流し込み、冷やして成型する鋳造(ちゅうぞう)という金属加工を行ってきました。エンジンのような立体的で複雑な形状を造るのに適しており、モノづくりには欠かせない技術です。

鋳造を行う町工場は日本中に多数ありますが、そのなかでコイワイが“突出”したのは、2007年に他社に先駆けてドイツ製の高額な3Dプリンターを導入し、国内発の積層砂型工法を確立したことによります。小岩井豊己社長は背景に漠然とした危機感があったといいます。

「今後の日本国内の産業を考えたときに、『当社の事業規模では事業継続が難しくなる。他社とは違う、日本の鋳造業界でナンバーワンの強みが欲しい』という思いがずっとありました。当社の仕事の6割はクライアントの研究開発での試作。特に自動車業界の商品開発のスピードが速まっており、部品メーカー同士の競争も激化するなかで、鋳造の試作には、短納期と高精度が求められていました。そこで当社が選んだのが、砂型積層装置の導入でした」

コイワイは03年にBMWが積層砂型工法を行っているという文献を見つけ、ドイツのメーカーを訪問して性能を確かめ、導入を決めました。砂型積層造形が可能な3Dプリンターはドイツ製とスウェーデン製があり、価格はおよそ1億5000万円。当時の売り上げ十数億円の企業としては莫大な投資です。当時、国内でこの装置を持っている大手企業や研究機関はあったそうですが、鋳造業で外部にサービスを提供したのは国内初でした。