神奈川県横浜市にある東京ダイス。あらゆる物質の中で最も硬いダイヤモンド工具でしか研磨できない、超硬素材の超硬合金の研磨加工技術に優れており、それを活かした開発能力に定評がある。
高い熟練度を要する精密加工技術を武器に、流体制御機器、耐磨耗製品を扱い、大手自動車メーカーなどが自社で開発しづらいニッチかつ唯一無二の機能を果たすオンリーワン製品を提供している。
二代目社長就任後の38年間、ご多分に漏れず、景気や技術革新の波に揉まれてきたが、これまで赤字らしい赤字は3回のみという優良企業だ。なぜ、そこまで好調を維持できているのか。中沢孝夫・福山大学経済学部教授が解説する。
受注生産型から開発提案型へ転換
もとは耐磨耗製品の受託加工を主に手掛けていたが、「受注量や売上高がジリ貧になり」(藤井克政社長)、その後現在の事業の大きな柱となっているのが流体制御機器。塗料や樹脂といった様々な粘度の「流体」を文字通り制御する機器を開発した。
実は、この変化は藤井社長が意識的に起こしたものだった。平たく言えば、注文通りの製品をつくる「受注生産型企業」から、時代の流れに自ら機敏に対応できる「開発提案型企業」へと変貌を遂げたのだ。
「私の前職は外資系塗装機メーカー。技術部で毎日実験を繰り返し、開発研究者として製品づくりに励みましたが、本国の本社に『こんな製品ができたから、日本で販売してもよいか』と尋ねると『君たちは我々が提供するものを売ればいい』と言われた。これが悔しかった」(藤井氏)
藤井氏が創業者である父・俊雄氏の後を継いだのは、俊雄氏が急死した38年前、28歳のときだ。高度成長期を終えた日本経済が2度のオイルショックで停滞していた頃だが、受託生産はまだうまくいっていた。
「しかし、パーツだけではなく機器の最終型までつくれる、つまりアセンブリを請け負えなければ将来生き残れない、という志を持って継ぎました。頭と手にため込んだノウハウでもっと飛躍したかった」