米国で生まれ、世界中で愛用されているデニムウエアだが、その生地生産で世界屈指のメーカーが広島県福山市にあることをご存じだろうか。備後絣の染色が家業だった老舗、カイハラが、海外の一流ブランドから高い評価を得、現在もユニクロのジーンズの約8割を担う秘密を探る――。

米国文化の産物に異質の価値を移植

カイハラの足跡からは、環境の変化に対する適応力の高さと、たび重なる革新への挑戦が浮かび上がります。米国文化の産物であるデニムを、伝統の技術をもって日本流につくり替え、さらに海外に打って出ようとする姿が印象的です。

日本には、外から取り入れたものを自国流にアレンジする文化的な素地があるようです。たとえば、コンビニは米国生まれですが、もとのそれとは異なるシステムにつくり替え、今日では海外へも進出しています。私はこれを「時間差攻撃」と呼んでいますが、カイハラもそれを成し遂げた企業のひとつといえます。

1893(明治26)年に創業した染織業のカイハラが、デニムの生産に乗り出したのは1970(昭和45)年。当時、日本製デニムは本物とは似て非なるものでしたが、カイハラは備後絣の伝統技術を用いて、日本初の本格的なデニムの染色に成功しました。

デニムへ最初に合繊を取り入れたのは「カイハラ」だった

その後のジーンズブームの波に乗り、倒産一歩手前だった同社はV字回復を遂げます。しかし、この頃のカイハラ製デニムは、高品質ではあっても、まだ輸入品の複製という域を出ていません。デニムが素材として大きく変貌しはじめるのは、ジーンズ人気が下火になった後の2000年ごろからです。

綿糸の織りに合成繊維を取り入れるなどして、薄くて軽量な生地や伸縮性のあるものが開発されます。近年では、夏に涼しく、冬に暖かいものなどもあり、機能性素材としてのデニムが普及しています。同社の貝原良治会長によれば、デニムに合繊を最初に取り入れたのは同社だそうです。

欧米ではまだ作業着のイメージが強いジーンズ。日本ではビンテージものなどプレミアム性で売る市場を残しながら、生地のデニムはファッション性の高い新素材に生まれ変わり、今は海外からも注目され始めています。

貝原会長は「国内のジーンズ市場は縮小しているが、海外はこれから」だと言います。技術をもって本家本元を凌駕し、新しい価値を植え付けて打って出る。その時間差攻撃に、日本の企業ならではの小気味よさを感じます。