会社の存続を懸けた「結合」の先見性

3つ目のポイントは、結合能力の高さです。

カイハラは「リーバイス」ブランドのリーバイ・ストラウスに力量を認められ、73年から取引を始めます。

当時のリーバイは、世界最大のアパレル企業でした。そこから同社は、工業化のシステム、ノウハウを吸収します。伝統的な産業構造から脱却する大きな契機になったと思われます。

さらに大きな転機は、ユニクロとの出合いです。現在、ユニクロが販売するジーンズの約8割を、カイハラ製デニムが占めています。両社が出合った98年、ユニクロのジーンズ価格は1980円でした。カイハラ製デニムのジーンズには2980円の値がつけられましたが「これで利益が出せるのか」と、貝原会長はいぶかったそうです。

しかし、国内の有名ジーンズメーカーが次々と姿を消すなか、ユニクロとの結合は経営の下支えとなり、カイハラはSPA(製造小売業)への供給比率を高めていきます。このSPAとの結合が、合繊メーカーとの結合へと発展していきます。

東レやユニチカなど合繊メーカーとの共同開発へ

本来、デニムに合繊は馴染まないものとされていました。しかし、東レやユニチカなど合繊メーカーとの共同開発により、カイハラは機能性デニムの領域に踏み出します。伝来の確固たる技術力をもとに、異質なものを結合させ、取り込んでいく。その柔軟さも、品質優先で独自に垂直統合を成し遂げてきたカイハラの見どころでしょう。

BtoBの企業でありながら、商社などを介さずに新製品を顧客に売り込むダイレクトマーケティングの展開もカイハラの特色ですが、そのための試作品は年間に700~1000点にのぼるといいます。

16年、カイハラはタイに新工場を設立しました。背景には、国内では難しくなってきている労働力の確保がありますが、タイ工場を拠点として新素材デニムのグローバル展開を図ろうというのが狙いです。今後、どのように進展するのか、その成果が注目されるところです。

技術力をもとに異質なものを結合、取り込む柔軟性
●本社所在地:広島県福山市
●代表者:貝原良治(1943年生まれ。成城大学経済学部卒業、繊維商社を経て貝原織布(現カイハラ)入社。2003年より現職)
●従業員数:746名(カイハラ44名、カイハラ産業702名、2017年2月現在)
●沿革:1893年創業、非上場。デニム素材の一貫生産(紡績、染色、織布、整理加工)および販売。
磯辺剛彦
慶應義塾大学大学院 経営管理研究科教授
1958年生まれ。81年慶應義塾大学経済学部卒業、井筒屋入社。96年経営学博士(慶大)。流通科学大学、神戸大学経済経営研究所を経て2007年より現職。企業経営研究所(スルガ銀行)所長を兼務。専門は経営戦略論、国際経営論、中堅企業論。
(構成=高橋盛男 撮影=浮田輝雄)
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