毎年均等に償却していき、2年目、3年目も売上高が同じなら、1年目と同額の法人税がかかり、3年間の法人税負担は「800万円×3年」で2400万円となる。即時償却では、2年目と3年目は減価償却費がゼロなので、おのおの3000万円の利益が挙がる。すると各年の法人税は「3000万円×40%」で1200万円。3年間トータルの法人税は「0円+1200万円+1200万円」で2400万円となる。つまり、トータルでは法人税が軽減されたことにはならない。即時償却は初年度分の「税の繰り延べ」にすぎないのだ。
また会計の視点から見れば、減価償却は投資した額を耐用年数という利益を生み出す期間に割り振って、正確な損益を計算していくものである。即時償却のように一括で処理すると会計上の適正さを欠く原因ともなりかねない。
メリットを挙げるとすれば、設備投資した年の税負担が軽くなることで、資金繰りが楽になることだ。このメリットを企業が感じとってくれて、さらに設備投資が促進されれば、実需が増えて景気回復の足取りが早まり、国全体の税収アップも期待できる。政府がそうした“青写真”を描いていることは、想像に難くない。
しかし、そもそも設備投資を行うか否かの判断基準は制度上のメリット云々ではなく、本当に利益を生み出す投資になるかどうかである。儲けにつながらない設備投資では意味がなく、即時償却できるからといって、安易に設備投資に踏み切るのは危険である。
そのような“誘い水”を政府が用意したとしても、決して惑わされることなく、自社の経営の先行きを見据えたうえで、活用するかどうかを冷静に判断していくことが何よりも重要であろう。