それに対し、日産式は付箋紙に収まるようシンプルに書かねばならないので、参加者は考えをあらかじめ煮詰めておく習慣が身についています。結果的に余計な話やテーマからずれた意見も出ない。議論をとことん深められて「その日に始め、その日中に結論を出す」ことが可能なのです。
「付箋紙に名前を書かない」ことも「議論深化」の要因でしょう。これは、部署・肩書に関係なく、参加者が自由に発言・提案できるようにするための方策。せっかく素晴らしい案を思いついたのに、会議の場で話すとなると緊張して声が小さくなり、言いたいことが言えない人もいる。でも、書くことならできる。議論の方向性が「声の大小」に左右されず、模造紙の中で純粋にアイデア勝負ができる。それが日産式なのです。
実は「意思決定者は会議に参加しない」こともルールのひとつですが、これも誰か(経営幹部など)に影響されず、積極的かつ建設的に意見交換する雰囲気をつくるためです。意思決定者は会議の最後に顔を出し、参加者が導き出した結論に対してGOかNO GOかを判断するだけ。
日本の会議における慣習や常識から考えると、日産式の作法はどれも驚くべきものばかりですが、それらが近年の日産の好業績を支えていることは確かです。
「V-up」がスタートして約10年。その間に会議で解決され、実行に移された案件は3万件以上。同社の試算によれば、実行したことによる効果は金額に換算できるものだけで約3000億円。金額換算しにくいものも合わせると倍にもなりうるとのことです。
震災後の対応や立ち直りが他の自動車メーカーに比べ突出して早かったのも、この議事録なしの「V-up」で「基礎体力」を養成してきたからなのです。