――印象に残っている仕事は?

【堀切】95年に事業部制を見直し、プロダクト・マネジャー(PM)制を導入した。PMは1つの商品について開発から販売までを一貫して統括する。しょうゆの国内需要の減少を、新商品の開発で補うための大きな改革だった。その際、私は「本つゆ」や肉用調味料のPMを担当した。

しょうゆ関連調味料は「しょうゆと他の調味料を混ぜればいいだけ」と思われるかもしれないが、研究所での味を製造ラインで再現するのは至難の技。さらに新市場に参入することで、それまで原料としてしょうゆを納入していた得意先の反発も予想された。絶対に失敗のできない挑戦で、非常にエキサイティングな思い出だ。現在、「うちのごはん」シリーズなど関連商品の売り上げは国内事業の核になりつつあるが、その源流となる仕事でもあった。

――創業家出身の社長は9年ぶりだ。

【堀切】 「家業」というほどの意識はないが、13代目の社長として先代たちの積み重ねてきた経営を繋がなくてはいけない。今の業容も56年前の経営陣が海外進出を決断したおかげだ。自らの意思決定が50年後、100年後の未来を見据えたものでなければ、という思いはある。キッコーマンは海外では若々しい企業として知られている。たかがしょうゆ、されどしょうゆ。歴史があるがゆえに見失ってしまうものを常に認識し、「古くて新しい調味料」として革新的な商品開発に挑みたい。

キッコーマン社長 堀切功章
1951年、千葉県生まれ。74年慶應義塾大学経済学部卒業、キッコーマン入社。関東支社長、執行役員、取締役常務執行役員、取締役専務執行役員を経て、2013年6月より代表取締役社長CEO。堀切家は同社創業8家の1つ。
[出身高校]
私立慶應義塾高校[長く在籍した部門]国内事業
[趣味]スキー、ワイン
[座右の書]浅田次郎『中原の虹』『マンチュリアン・リポート』[座右の銘]積小為大
(稲泉 連=構成 門間新弥=撮影)
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