商品やサービスを売る際に大事なことは何か。シリコンバレー在住の起業家・今野有子さんは「一見すると弱みに思える特徴でも、捉え方と伝え方次第で、他にはない大きな価値に変えられる。私はそれをルクセンブルク産のワイン販売で改めて実感した」という――。(第1回)

※本稿は、今野有子『目に見えない価値の伝え方 顧客を感動させる提案の技術』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

グラスに赤ワインを注ぐ
写真=iStock.com/Alberto Gagliardi
※写真はイメージです

無名産地のワインを売る方法

私は起業後、スペインやフランスでワイナリー巡りをしながら情報収集し、高品質で日本にまだ輸入されたことがないワインを探していました。有名なワイン生産地ではすでに商社やインポーターが契約しているワイナリーが多く、輸入交渉は難航します。

しかし、ワイン産地として知られていないエリアに行くと、素晴らしいワインが残っていることがわかりました。私はさまざまなエリアのワインを飲み比べ、自らのワインの好みを追求していくうちに、冷涼感を感じられるワインに心惹かれることがわかり、だんだんと北の産地か、海風が吹き抜けるような産地へと旅するようになりました。

ルクセンブルク、スペインのイビサ島、フランスのコルシカ島のワインを輸入した私は、無名産地のワインの魅力をどうやって伝えるかという難題に直面しました。

ボルドーやブルゴーニュのように伝統のあるイメージもなければ、チリやオーストラリアのようにコストパフォーマンスがいいというイメージもありません。消費者にとっては産地の場所も頭に思い浮かべられず、価格も高め。どんな味なのかもわからない、謎のワインです。

関心や興味を惹くだけではなく、「実際に買おう!」と決断してもらうために、あなたならどのように紹介しますか?

「ここでしか飲めない」を強調する

私が実際におこなったのは、「無名」であることを強調してプロモーションをおこなうというアプローチでした。

(A)希少価値(特別な体験)

「無名」ということは、一見すると弱みですが、「まだ誰も知らない特別な存在」とも捉え直すことができます。無名産地のワインは市場にほとんど出回っていないため、特別な体験を提供できるからです。

通常は現地でしか飲めない希少なワインを日本で楽しめることが大きな魅力です。「ここでしか味わえない」という希少価値を前面に打ち出しました。

(B)話題性(共感の連鎖)

人は特別な体験をすると、誰かに話したくなるものです。ワインを飲んだ後、友人や同僚に伝えたくなったり、SNSに投稿したくなったりする流れをつくることが大切です。

「こんなワインを飲んだ!」と話したくなる環境を整えることで、自然に広まる土壌が生まれます。そのためには、ワインの背景や産地を語りやすくする工夫が欠かせません。商品が自然に広がっていくためには、複雑な情報ではなく、簡単で覚えやすい言葉で魅力を伝えることが重要です。

たとえば、産地や生産者の特徴をシンプルにまとめたり、誰でも説明しやすいキャッチコピーを用意したりすることで、ワインの個性を他の人に伝えやすくなります。また、「飲むだけでなく、語る楽しさもある」という点を強調することで、体験としての価値を高めることができます。