「データ重視」を意味する「ID野球」を標榜した名将・野村克也さんは「常に原理原則を見据える」ということを大切にしていました。その一方で、「ワシはすぐに情にほだされてしまう」と、自ら口にしていたように、人情家としての一面もありました。また、リーダーとして部下を導く際には、「理だけでもダメで、情だけでもダメ」と説いています。その真意を見ていきます。

迷ったときには、原理原則に立ち返れ

野村克也は「常に原理原則を見据える」という、監督としての基本理念を持っていた。原理原則とは、一語でいえば「理」である。ものごとの筋道や法則のことであり、もっと端的にいえば「あたりまえのこと」と言い換えてもいいだろう。

原理原則をしっかりとわきまえていれば、どんな事態にも冷静に対処することができる。事物、事象、仕組み、構造など、世の中に存在するものすべてに理があり、そして根拠がある。だから理にかなわないことはしない。理にかなわなければ必ず無理が生じる。どんなときでも、理を以てして戦う——。それこそが、野村の野球観だった。

(構成=岩川悟 図版=佐藤香奈 写真=川しまゆうこ、産経ビジュアル)