仕事が忙しいと、今日のタスクや今月の売上といった短期的な結果に集中しがちだ。人材開発や組織開発が専門の立教大学の中原淳教授は「俯瞰的な視点を持つ余裕がなくなると、長期的な成長の機会を逃してしまう。そんなときは『見渡し』経験を取り入れるといい」という――。

※本稿は、中原淳、パーソル総合研究所、ベネッセ教育総合研究所『学びをやめない生き方入門』(テオリア)の一部を再編集したものです。

疲れ切っていて、眼鏡を押し上げて目をもんでいるビジネスパーソン
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タスクバカ、課題解決バカ、専門バカ

「見渡し」経験は、私たちの日常のなかにも隠れています。

たとえば、結婚や子育てといったライフイベントを通じて、自分とは異なる価値観や視点に触れる機会は、典型的な「見渡し」経験だと言えます。

とくに、世代が異なる親子関係では、子どもからドキッとするような質問を受けることもありますし、子どもと接するときには、本人の気持ちや知識、経験、やる気を少し引いた目で観察する必要が出てくるからです。

また、世代や職種を超えた他者との交流を通じて、自分の周囲の価値観や業界内で当たり前とされている見方を相対化できることもあります。

「業界の常識」と思っていたことが、他分野ではまったく通じなかったり、「当たり前」としていた働き方が、別の世代や文化では異なっていたり――そうした発見をすることで、見渡しの視点がさらに広がっていくのです。

逆に、日々の業務に忙殺されると、私たちはどうしても目の前のタスクをこなすことだけに集中してしまいがちです。

その結果、俯瞰的な視点を持つ余裕がなくなり、長期的な成長の機会を逃してしまうことになります。

思い当たる状態はないでしょうか?

・ タスクバカ――目の前のタスクに追われ、全体を見渡す余裕がない

・ 課題解決バカ――目先の課題解決ばかりに集中し、根本的な視点を見失う

・ 専門バカ――自分の業界・専門分野に閉じこもり、新たな視野を獲得しない

目先の課題の「モグラたたき」に終始してはいけない

私自身、学生たちには「課題解決バカになるな」とよく言っています。

課題解決が得意な(ある意味では「優秀な」)学生ほど、「そもそもなんのために課題解決を行い、どこを目指しているのか?」という全体性を見失ってしまいがちだからです。

課題解決それ自体はとても大事ですが、目先の課題の「モグラたたき」に終始し、目線がどんどん下がっていってしまっては元も子もありません。

大学での学びにおいても、本当に大切なのは「そもそも、課題がどういう構造になっているのか?」という本質を見抜こうとする姿勢です。

そのためには、全体を「見渡す」ような視点が欠かせないのです。

調査データを分析すると、「見渡し経験」にも3つのタイプが見えてきました。

近視眼的な状態から抜け出したり、そこに陥ることを防いだりするためには、次の3つの「見渡し」を意識しましょう。