欠勤よりも大きい「はかどらない」損失
腰痛や肩こりに悩んでいる人は少なくありません。しかし、これらの症状は「よくあること」「たいしたことではない」と軽視されがちです。ところが、近年のさまざまな研究から、それらの慢性的な痛み(疼痛)が、日本経済に深刻な損失をもたらしている可能性が明らかになってきました。
従業員の健康問題が企業の生産性にもたらす損失には、「アブセンティーイズム」「プレゼンティーイズム」という2つの要素があります。アブセンティーイズムとは、仕事を休むことによって仕事が「できない」状態のことです。一方のプレゼンティーイズムは、出勤はしているものの、体調不良のために仕事が「はかどらない」状態を表しています。
日本人労働者約1.2万人を対象にした研究によると、企業における従業員の健康問題に関する損失の内訳は、医療費・薬剤費が25%、アブセンティーイズムが11%に対して、プレゼンティーイズムが64%を占めています(※1)。休むことによる損失よりも、調子が悪いまま働くことによる損失のほうがはるかに大きいのです。
つまり、従業員の健康問題による損失の大部分は、目に見えにくい形で発生しているということです。従業員が「今日は調子が悪いので休みます」と言えば、その損失は目に見えます。しかし、「調子は悪いけれど出勤して、なんとか仕事をこなす」という状況では、損失が見えにくく、対策も後回しになりがちです。
プレゼンティーイズムの原因はさまざまですが、なかでも大きな割合を占めるのが、睡眠障害やうつなどの精神的な不調と、腰痛や肩こりといった筋骨格系の痛みです。
これらの症状は、多くの人が抱えていますが、それだけで仕事を休む人は少なく、痛みを我慢しながら働き続ける傾向が強いためです。
日本社会には「少しくらいの体調不良では休めない」という風潮がいまだに根強く残っています。そのため、痛みを抱えながら働き続ける人が多く、それがパフォーマンスの低下につながっているのです。
海外の研究では、腰痛・肩こりを含む慢性疼痛により、週に平均4.6時間の生産性損失が生じているという試算があります(※2)。こうしたデータを日本の労働環境に当てはめた場合、慢性疼痛による経済的損失は年間およそ1兆9530億円に上るという研究もあります(※3)。これは2012年時点の数値ですが、その後の日本の高齢化を踏まえると、現在の損失額はさらに増えている可能性があります。
慢性疼痛に関する別の国内調査では、成人の4人に1人が慢性的な痛みを抱えており、その中で腰痛・肩こりが最も痛い部位である人が約半数を占めています(※4)。つまり、前述の経済的損失のうち、腰痛・肩こりだけで半分の年間1兆円近い経済損失を生み出していることになります。
しかも、この約1兆9530億円の試算は、痛みにより実際に仕事を休んだ場合(アブセンティーイズム)の損失のみを算出したものです。プレゼンティーイズムや医療費・薬剤費、さらに整体やマッサージなどによる損失を加えれば、損失額は2兆円を超える可能性があります。
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