2日酔いの薬がシミ・そばかす薬に!?
ターゲティングが済んだら、ポジショニングだ。ポジショニングとは、標的市場の見込み客のマインドに、ブランドを位置づけることを指す。企業側から働きかけがないと、顧客はブランドを思い思いに位置づける。一人ひとり思い描く顔が違うと、強いブランド構築は望めない。
同じ製品でも、ポジショニングによって見込み客が抱くブランドイメージは大きく変わる。例えばエスエス製薬の「ハイチオールC」は、もともと男性向けに2日酔いの薬として販売されていたが、現在は女性向けのシミ・そばかすの薬として展開。同成分なので効能も同じだが、商品から想起されるイメージはすっかり変わった。見込み客にどう認知させるかは、まさにポジショニングしだいなのだ。
STPでポジショニングが定まれば、標的市場において目標を実現させるために、次は「4P(プライス・プロダクト・プロモーション・プレース)」を具体的に検討しなければならない。コトラーはSTP決定後に4Pを検討することが望ましいと説いているが、考えてみればもっともな話だ。「g.u.」は、990円ジーンズという製品があったから低価格路線を決めたわけではない。「市場最低価格」というポジショニングが決まっていたからこそ、それを体現する価格や製品が生まれたのである。
もちろん実際のビジネスの現場ではSTPと4Pが複雑に絡み合い、行ったり来たりでマーケティング戦略が決まることも多く、コトラーもそれを指摘している。その意味では厳密にSTPと4Pを分けて考える必要はないかもしれないが、それぞれのフレームワークを理解することで、マーケティング戦略の立案がより容易になるはずだ。
じつはSTPや4Pを構成する各理論の多くは、コトラーのオリジナルではない。例えば4Pは、すでに1940年代にジェローム・マッカーシーが提唱している。ただ、それらを整理して体系化したところに最大の功績がある。コトラーの書いた『マーケティング・マネジメント』は、マーケティングの教科書としていまでも多くのマーケッターに親しまれている。近代マーケティングの基礎は、コトラーが確立したといっても言いすぎではないだろう。
※すべて雑誌掲載当時