ただし、マーケティング近視眼を避けようとしすぎると、今度は事業を広く、遠く見すぎてしまう「マーケティング遠視眼」に陥るリスクもある。
その典型が60年代のGEであった。おそらく経営陣が「マーケティング近視眼」を読んだのであろう。同社では自社の事業を製品ではなく顧客の視点によって再編成していった。例えば原子力はエネルギー事業、洗濯機はクリーニング事業という具合である。
こうすれば確かに成長の機会の見落としは少なくなるが、当然の帰結として自社の投資先も拡大していく。エネルギー事業は原子力だけでなく火力や風力、水力もあるから、そちらへも投資がなされるわけである。
だが、それは事業の拡大に寄与する可能性とともに、キャッシュが回収できず、資金繰りに窮する可能性も秘めている。実際、GEはつまずいた。
マーケティング近視眼を避けようとするあまり事業を広く、遠く捉えたら投資がかさみ、収益性が悪化してしまうという矛盾に直面したのである。これがマーケティング遠視眼の弊害である。