性能で上回るソニーが業績不振な理由
セオドア・レビットの「マーケティング近視眼」は1960年に発表された古い論文ながら、今なお読む者に強いインパクトを与えてくれる。この論文でレビットは「マーケティング近視眼を避けよ」と説いた。
例えば、アメリカにおいて鉄道事業が凋落したのはなぜか?
その理由は輸送に対する需要が減ったためではなく、自動車や航空機に需要を奪われたためでもない。鉄道事業者が自らを輸送事業と定義せず、鉄道事業と定義してしまったためである。
では、なぜ鉄道事業者は事業の定義を間違えてしまったのか? それは輸送を事業の目的と考えず、鉄道を目的と考えたからだ。すなわち顧客中心ではなく、製品中心に事業を定義してしまったためである。
このように事業を製品中心に定義することを改め、顧客中心に変えなければ事業は衰退する。そうレビットは説いた。
つまり「マーケティング近視眼を避けよ」とは、自らの事業を製品や手段で定義せず、その製品が果たす機能や、顧客がその製品によって解決しようとしている目的によって定義せよ、という意味である。
アメリカで鉄道事業は凋落したが、日本では今なお健在である。その理由を考えると、日本の鉄道会社が自社を「鉄道だけの会社」とは捉えていなかったことが大きい。
阪急グループの創始者、小林一三が鉄道にとどまらず沿線の宅地開発や百貨店の開業、宝塚歌劇団の創設など様々な取り組みを行いながら事業を盛り上げていったのがその嚆矢である。
近年、JR東日本などが駅構内において流通業を展開し力を入れているのも、駅を通過する人を単純に「鉄道の乗客」とは捉えていないからであろう。