高齢の母に内視鏡検査は必要か
先日、80歳の私の母が、腸閉塞をきっかけに発見された大腸ポリープを切除する手術を受けました。治療は無事に終わり、主治医から今後のフォローアップ検査についての説明がありました。
若くて元気な患者さんであれば、今後もポリープが生じる可能性があるため、数年後の大腸内視鏡検査が推奨されます。しかし、母は高齢で、今回の検査と入院は相当つらかったようです。たとえポリープができたとしても、その多くはがんにはなりませんし、仮にがん化したとしても、症状が出るほどに成長するまでにはかなり時間がかかるのが一般的です。となると、「苦しい思いをしてまで検査をしない」という選択肢もあります。
主治医も、そのあたりの説明はやや慎重な口調でした。よくわかります。私自身も医師として、同じような状況で「ご高齢ですから、つらい検査をしないという選択肢もあります」とご説明すると、ご本人やご家族の方から「年寄りだと手を抜くのか」などと怒られることがあるからです。
私は母と相談したうえで「母は高齢ですし、大腸検査はしなくてもよいと思っています」と主治医に伝えると、こころなしかホッとしたご様子でした。
患者さんの価値観はそれぞれ
私は医師ですから、高齢者に対する大腸内視鏡検査の利点や負担について、ある程度わかっています。しかし、そうした医療情報に日頃触れる機会の少ない方々にとっては、どう考えて何を選択したらいいのか判断しづらいこともあるでしょう。
もちろん、ほとんどの医師は普段から、現場において実現可能で、かつ最善の医療を患者さんに提供しようと努めていますし、しっかり説明しているだろうと思います。とはいえ、患者さんの価値観はそれぞれです。「つらい治療をしてでも、できるだけ長く生きたい」という考えもあれば、「寿命が短くなっても、つらい治療は避けたい」という思いもあります。
病状や年齢などだけでなく、そうした多様な価値観にも配慮しながら、適切な情報を提供し、患者さん自身の意思決定を支えるのも医師の大切な仕事のひとつです。かつては、医師が治療方針を決めるのが当たり前でしたが、現在は「インフォームド・コンセント」――つまり医師が十分な情報を提供したうえで患者さん自身に選んでもらうことが重視されています。

