肝疾患の治療は「悪い部分を切って終わり」ではない
肝臓は特殊な臓器です。生体の代謝活動(合成・解毒)の中心を担っており、人間は肝臓なしには生きていくことができません。肝臓が悪い人は他の臓器にも疾患を持っていることが多く、たとえば高血圧や腎臓機能の衰えなど、全身に問題を抱えています。そのため肝疾患の治療は決して「肝臓だけ診ればいい」「悪い部分を切って終わり」にはなりません。
肝臓がんの約95%を占める「肝細胞がん」は、B型肝炎やC型肝炎のようなウイルス性疾患、アルコール性肝障害、糖尿病、脂肪肝、そのほかの肝疾患によって肝臓が悪い方が発症する病気です。肝細胞がんは根治を期待して治療を行っても再発する確率が高く、長年の肝疾患によって傷んだ肝臓自体も新たな発がんの温床となっています。したがって、胃がんや大腸がんのように、「術後5年再発しなければ治癒」という考え方はできません。5年ほど再発しなかったら「もう大丈夫でしょう」と手放してしまう医師もいるようですが、その姿勢には疑問が残ります。「完全に治すことは難しい、ずっとつきあう病気」という目線を持つことが大事です。
肝臓がんの治療法はさまざまありますが、好き嫌いで自由に選べるものではなく、がんの進行度合いや肝機能の状態などによってベストな治療法がガイドラインで定められています。しかしながら、すべての施設がすべての治療法に長けているわけではありません。手術の腕前に定評がある外科医に手術してもらったとしても、内科のレベルが低ければ適切なフォローアップやその他の治療が困難になりますし、逆に内科の実績が高い施設でも手術ができる外科医がいなければ、生存のチャンスを逃してしまう可能性もあります。つまり、がんの中でも肝臓がんは、診療チームの総合力が問われるがん種と言えるのです。
肝臓がんの患者さんは肝臓自体に慢性疾患を有しているので、たとえばウイルス性肝炎であればB型肝炎やC型肝炎に対する治療、アルコール性肝障害や脂肪肝の治療、肝硬変に伴う食道静脈瘤などさまざまな合併症に対するマネジメントに長けた内科医の存在が不可欠です。
近年はいわゆるメタボリックシンドロームに関連した肝臓がんの患者さんが増えていることから、虚血性心疾患、脳梗塞などそのほかの臓器に発生する疾患への対応ができるかどうかという点も重要になっています。肝臓がんの診療においては、「がんに対する適切な治療」「他臓器の疾患や合併症への対応」「内科のフォローアップ体制」など、一つの医療施設内であらゆる状況に対応できるよう、さまざまな診療科のスペシャリストがそろっていることが重要です。これはほかの臓器に発生するがんの治療とは大きく異なる点です。
がんと診断されると、治療件数の多いがん専門病院で治療を受けたいと考える方もいるでしょう。しかし、がん専門病院はあくまでがんの治療に特化した施設です。先述したように肝臓に疾患を抱える人の多くは他の臓器にも疾患を抱えていることが多く、たとえば重度の心疾患を抱えている方や透析患者などリスクの高い併存疾患がある方のマネジメントはがん専門病院では困難です。そのようなケースでは各領域の専門家がそろった総合病院のほうが診療上有利になります。
肝胆膵外科医は約10年でやっと「スタートライン」
では肝臓に病気が指摘された際、どのように病院を選ぶべきでしょうか。個々の患者さんの持つ疾患の重症度や緊急性、そのほかの疾患の有無などを加味して総合的に判断する必要があります。
がんの診療に関してはある程度実績のあるハイボリュームセンター(大学病院やセンター病院など症例数の多い病院)を選んだほうがよいという考え方には一理あります。肝臓の手術は消化器外科を標榜していればどこの施設でもできるというものではありません。経験豊かで慣れているスタッフが多い病院のほうが、治療の安全性・確実性の点では有利なので、施設の症例数は一定の目安になります。ただし、手術の症例数がそのまま医師一人ひとりの経験数や熟練の度合いを表すわけではないことにも注意が必要です。
腹部臓器の手術の中でも、肝臓の手術は難易度の高い手術です。肝臓には毎分1200ミリリットルもの血液が流れており、メスで切り込むとたちまち大量出血し、コントロールできなければ生命にかかわります。そのため、求められる知識や技術も自ずと高度になります。
一般的に外科医が一人前になるには最低10年の期間を要するといわれますが、肝臓・胆道・膵臓を扱う肝胆膵外科医は10年前後でやっとスタートラインに立ちます。一人前になるにはさらに長い修練期間を必要とする領域なのです。日本肝胆膵外科学会では、高難度の手術を安全かつ確実に行うことができる外科医師の育成のために、厳しい審査のもと技術のクオリティを担保する「高度技能専門医」の認定制度を設けています。そうした資格を有する外科医が在籍しているかどうかは施設の手術のクオリティを判断するうえで一つの目安になります。
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