後悔しない決断をするには、どうしたらいいのか。多摩大学大学院客員教授の冨島佑允さんは「私たちは毎日、何かしらの選択を迫られている。賢い選択をするためには、“秘書問題”という数学の命題がとても参考になる」という――。(第2回)

※本稿は、冨島佑允『人生の選択を外さない数理モデル思考のススメ』(アルク)の一部を再編集したものです。

足元に描かれた、いろいろな方向を示す矢印
写真=iStock.com/alexsl
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毎日が“選択の連続”である

みなさんは日常生活で選択を迫られる場面に何度も出くわしますよね。友人との昼食で何を食べるか、週末にどこへ行くか、スマホをどの機種にするかなど、些細なことでも常に選んでいます。

また、長いこと生きていくと、人生を左右するような大きな選択もたくさんします。例えば、どの大学を志望するか、どの会社にエントリーシートを出すか、誰と結婚するか、どの家を買うかなど、挙げればキリがありません。

私たちの社会では、選択の自由が保証されていますが、それは裏を返せば、自己責任でいろいろな決定を下さなければならないということでもあります。選択には、悩まずに済むものから、ものすごく悩むものまでありますが、いずれにせよ最善の選択をしたいものです。もし、最善の選択をする方法について、数学者からアドバイスがもらえるとしたら、ちょっと興味がわきませんか?

ここでは、そんな日常生活での選択に関連づけて、数学の世界でも有名な「秘書問題」を紹介します。これからの生活や人生で選択を迫られる場面に出くわしたとき、より賢い選択ができるかもしれませんよ。そもそも秘書問題とは何でしょうか? 言葉だけでは理解しづらいので、身近な例を使って説明します。

“優秀な1人”を選ぶのは難しい

自分が「ある企業の社長」で、自分の秘書を採用するために求人サイトに広告を出したと想像してみてください。求人に応募してきた候補者から、秘書を1人選ぶことになりました。候補者たちのなかから最適な人材を選びたいですが、応募者全員のスキルや特性を完璧に把握することはできません。そこで、どの候補者が最適かを見極めるために、どのような方法を取るべきでしょうか?

これが「秘書問題」です。この問題では、候補者全員を1人ずつ面接し、その場で採用するかどうかを決めなければなりません。そして、一度採用を見送ったら、その候補者を再び候補者にすることはできません。つまり、最適な秘書を見つけるためには、面接時の一発勝負で見極めなければならないのです。この秘書問題の状況設定は、私たちが人生で経験する選択の機会と2つの点で共通点があります。

第一に、「判断を変えることの難しさ」です。ランチで注文したラーメンが口に合わなくても、食べかけのものをキャンセルしてメニューを変更することはできません。結婚や就職も、一度選んだ対象を変える行為(離婚や転職)には相当なエネルギーが必要です。

第二に、「リサーチの限界」です。すべての選択肢を完全に調べ上げることは現実的ではなく、たいていは取り得るすべての選択肢のうちの一部しか調べることができません。結婚相手を選ぶときも、仮に世界中のすべての男性(約39億人)と付き合ってから決めようとすれば、寿命が尽きてしまうでしょう。ですから、秘書問題の考え方を身につけておけば、賢い決断に役立つのです。