※本稿は、冨島佑允『人生の選択を外さない数理モデル思考のススメ』(アルク)の一部を再編集したものです。
嫁姑問題は日本に限らない
家族関係は、人生においてもっとも重要でありながら、もっとも難しいものの1つです。家族は愛情やサポート、安全を提供してくれる場所ですが、ときには摩擦や対立も生じます。特に、結婚によって新しい家庭が生まれるとき、さまざまな問題が浮上することがあります。よく聞く話の1つが、結婚した女性(嫁)と夫の母親(姑)との間に生じる対立、いわゆる「嫁姑問題」です。
この問題は、日本に限らず多くの文化や社会で見られます。例えばアメリカでは、「Toxic In-Laws」(毒になる姑)という言葉があるほどです。この問題は、当事者からすると悩ましく腹立たしいものですが、いくつかのよく知られた原因があります。ありふれた原因でどの家庭にも起こりうるものだ、とあらかじめ知っておけば、少しは気もまぎれるのではないでしょうか。
嫁姑問題が発生する理由をひも解いてみると、大きく分けて「社会的な理由」と「生物学的な理由」があります。まず、社会的な理由ですが、嫁と姑は世代が違うので、持っている常識や価値観にギャップがあります。そんななかで、姑が嫁に対して特定の期待を抱くことがあります。
“遺伝子レベル”の原因が潜んでいる
例えば、実家との付き合い方、家庭内での役割分担、孫の養育方法などです。嫁の行動が期待に沿っていないと姑が感じると、嫁と姑との間に緊張が生じます。さらに、一緒に暮らしている場合は、家庭内のちょっとしたことに対する流儀の違いも、互いのストレスに繋がるようです。どこのスーパーへ買い出しに行くか(そして、ちゃんと節約できているのか)、食器洗いをどれくらい丁寧にやるか、夕食のメニューを何にするか、など些細なこともきっかけとしては十分です。
それだけでなく生物学的な理由もあり、ここではこちらが本題です。実は、遺伝子レベルの原因が潜んでいるのです。というわけで、嫁姑問題を理解するために、「利己的遺伝子仮説」について見ていきましょう。利己的遺伝子仮説は、人間を含むあらゆる生物の行動を、遺伝子のしくみをベースに説明する理論です。
利己的遺伝子仮説は、1976年にイギリスの生物学者リチャード・ドーキンスによって提唱されました。要点だけを簡単にいえば、生物の行動や特性は、遺伝子を後世に伝えやすくする方向に進化してきたという仮説です。