進化の主役は「遺伝子」だと考えた

生物の進化については、18世紀にチャールズ・ダーウィンが提唱した「進化論(ダーウィニズム)」が長らく定説になっていました。しかし、本書で説明しますが、ミツバチなどいろいろな生物の観察をしていくうちに、説明のつかない現象が現れてきて、ダーウィニズムを一歩前に進めた理論として「利己的遺伝子仮説」が登場したのです。

利己的遺伝子仮説の革新的な点は、進化の主役は「生物」ではなく「遺伝子」だと考えたことです。ダーウィンは1匹1匹の動物や植物、すなわち「生物個体」が生存競争を繰り広げていると考えたのですが、利己的遺伝子仮説では、「遺伝子」が生存競争を繰り広げているのだと考えます。つまり、注目すべき対象を「生物」そのものから「遺伝子」に切り替えたのです。

例えば、ミツバチの巣の中でせわしなく働いている働きバチたちは、実はすべてメスです。しかし、子どもを産むのは巣の中でたった1匹の女王バチだけで、働きバチたちは自ら子どもを産むことはありません。それなのに、彼女たちは女王バチの産んだ卵や幼虫を献身的に世話しながら一生を終えます。なぜ働きバチたちは、自ら子孫を残さないのでしょうか? ダーウィン流の、「より多くの子を残せる生物個体の特徴が、後世に伝わり広まっていく」という考え方では、敢えて子を残さない個体がいることを説明できません。