その後の伝説の花魁の運命
しかし、悪徳が過ぎたようだ。瀬川を身請けして3年後の安永7年(1778)、高利貸しでの不正が発覚して、ほかの盲人たちと一緒に処分される。財産を没収のうえ江戸から追放されたのだから、かなり重い処分だった。
こうして身請けされながら、わずか3年で生活の糧を失った瀬川が、その後、どうなったのか、たしかなことはわからない。武士の妻になった、大工の妻になった、という話はあるが、確証はない。ただ、西洋では娼婦が引退後に一般男性と結婚する例など、ほとんどなかったのに対し、吉原の女郎は前述した理由で差別されていなかったので、ふつうの結婚も難しくなかった。瀬川がだれかの妻になったとしても、不自然ではない。
五代目瀬川について、史実として確定していることは少ないが、物語は伝わっている。田螺金魚は鳥山検校が処罰を受けた安永7年、『契情買虎ノ巻』という洒落本(遊廓を舞台にした戯作文学)に、五代目瀬川の身請け話を書いた。身請けされたため、恋仲だった客との悲恋が生じたという話で、もちろんファンタジーだが、おそらく吉原には似たような話がたくさんあったのだろう。
「べらぼう」でも今後、蔦重と瀬川は思い合いながら、瀬川は吉原のために身請けを受け入れ、悲恋が生じるようだ。それもフィクションだが、吉原における人間模様が色濃く描けていることはまちがいない。
(初公開日:2025年3月2日)