「双方向」は意外と簡単にできる

【内田】大学人ならではの観点ですね。教師自身は持っている知識を総動員して頑張って指導や評価をしようとするけど、実際には知っている範囲でしか子どもを評価することが出来ない。それが価値観の押し付けという意味でパワハラになってしまいうるし、現場ではそこまで徹底することすら難しいと思います。マニュアル通りに授業を進めて、何とかギリギリ回しているのではないか。

一緒にプロジェクトに取り組む子供たち
写真=iStock.com/Peggy Cheung
※写真はイメージです

【木村】現場の教師のキャパシティを超えた要求ですよね。本来は、双方向・探究型のプログラムを作る段階で、現場で現実的に実践できるようなメニューやノウハウを用意しておかなければいけない。双方向型の授業って、本当に難しいんです。笑えない笑い話のようですが、私の経験を聞いてください。

法科大学院が出来た際、「これから講義は双方向型にしよう」という動きがありました。講義中に、受講生に質問をしながら進めていくんですね。「では、契約解除の要件を3つ言ってくれますか」とか。本来なら、黒板に3つの要件を書いて「覚えてくださいね」で済んだことですから、非常に効率が悪いんです。

特に、法科大学院は司法試験に向けて効率よく多くの知識を吸収したい学生が多いので、こういった双方向性が負担になってしまう。そこで私は、Q&Aを配ってみたんです。質問と答えが両方載っていて、どちらも私が書いています。そのうえで「皆さん、今日はこの判例を読みます」と。「1つ目の質問です。この判例の訴訟形態は何ですか、○○君」と聞くと、「はい、先生。○○訴訟でこれは公法上の当事者訴訟です」とかペラペラ答える。「おー、素晴らしい」となる。もちろん、自分の言葉で答えてもらってもいいわけですが、大抵は配られた答えを読み上げるんですね。

「研修」は有益だが、負担はさらに増える

【内田】台本みたいですね。

木村草太『憲法の学校 親権、校則、いじめ、PTA――「子どものため」を考える』(KADOKAWA)
木村草太『憲法の学校 親権、校則、いじめ、PTA――「子どものため」を考える』(KADOKAWA)

【木村】でも評判が良かったんです。なぜなら、講師が1から10まで説明していたことを、半分に分けてQ&Aの掛け合いにしているだけなので、情報伝達として効率が落ちない。しかも、当てられたらすぐに答えないといけないから、受講生は必死にQ&Aを読む。一見無意味なようでいて、案外、盛り上がるし、変化が生まれる。

双方向型授業ってゼロから自由に考えさせないといけないみたいな固定観念がありますが、これは相当ハードルが高い。Q&Aを読み上げるだけでも、意外と双方向になるよ、と。

【内田】その発想は面白いです。自由度が高くないといけないという幻想がありますよね。でも、授業である限りは何らかの原理原則・型がないと成立しない。私たちが書く論文だって、型破りな展開で書いてしまったら誰も読まないわけです。大事な点ですね。

【木村】双方向・探究型授業には、これまで初等・中等教育で蓄積されてこなかったノウハウが必要なのですが、それは大学院ですでに蓄積がなされている。その意味では、大学教員が受けるパワハラ研修、アカハラ研修は、小中学校の教師にとっても有益かもしれません。ただ、教員の負担は、さらに増えますね。

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