この高圧送電公社は、目安としては3000ボルト以上の電力を扱う。糸魚川ラインを境にした東西の電力会社を結ぶ、「東西グリッド」に関しても、この会社の責任で現状の4倍、400万キロワットぐらい融通できるようにすれば、ピーク電力の時差にも対応できる。
「東西の周波数を統一しろ」という声もあるが、家電製品が50ヘルツでも60ヘルツでも動くように、工場のモーターなどごく一部の例外を除いては、周波数の違いを乗り越えることはさほど困難な問題ではない。
発電会社から買い取る電力の値段を決めるのも、この公社の仕事だ。買い取り価格が決まれば、「これなら競争力がある」と思った業者が発電に参入してくるだろう。カタールやオーストラリア、あるいはマレーシア、インドネシアなど、日本にLNG(液化天然ガス)を輸出している国が、自前のガスを使って日本で発電までやろうとするかもしれない。十分な長期保証を与えれば、世界中からいろいろな種類の発電業者が集まってくるはずだ。世界最安値の発電会社がやってきて最強のエネルギーコストで発電するようになれば、不明瞭だった発電のコスト構造が明確になる。
政府が提出した「電力システム改革」のどこを見ても発電コストが下がるアイデアは存在しない。しかし、電力のTPPをうまく利用して世界に門戸を開放すれば、電気料金は劇的に下がる可能性がある。ただし参入過剰によるダンピングを防止するために、高圧送電公社が中長期的な戦略を持って「買い取り価格」を設定していく必要がある。
現在の再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(フィード・イン・タリフ=FIT)のように、「1キロワット42円で買い取ります」なんて大甘なことを言っていると、収拾がつかなくなる。しかも買い取り義務があるため、高いからといって中止すれば訴訟問題に発展する可能性もある。そういう事態に陥らないように適切な「買い取り価格」を提示する必要がある。
また石炭のナマ焚きで発電されても困るわけで、発電方式を制限したり、電源ロスが生じないように参入してくる業者に発電施設のロケーションを提案する。これも高圧送電公社の大事な役割だ。