共産党の覚えめでたい女優が映画賞を総なめ
中国で成功するには、まず共産党に評価され、好かれなくてはいけません。映画・演劇でさえ、中国共産党宣伝部の管轄下にあり、表現の自由はありません。従って、共産党のさじ加減ひとつで、上映禁止にできるのです。ただし、共産党に愛されると様々な選択肢を持つこともあります。
私が北京にいた1990年代は、リウ・シャオチン(劉暁慶)という女優が大活躍していました。日本では1985年に公開された『西太后』で残忍な西太后役を演じた女優です。中国共産党の歴史観では、西太后は中国の利益を外国に売り渡した悪女なので、史実を折り曲げて西太后を残忍な為政者として描いています。
彼女は1987〜89年までに、中国の3大映画賞の1つ「百花奨」で、3年連続で最優秀主演女優賞を受賞しています。一方で、1988年には中国の議会に当たる政治協商会議の全国委員に選出され、1998年まで政治家としても活動しています。共産党の覚えがよかったのでしょう。
「共産党の犬」と呼ばれるジャッキー・チェン
やはり共産党との蜜月関係を維持し続けている俳優が、『酔拳』『プロジェクトA』『ポリス・ストーリー』シリーズなどで人気の世界的アクションスター・ジャッキー・チェンです。ジャッキーは香港で生まれ育ちました。1989年の天安門事件のときには学生たちを支持し、中国共産党に対して批判的な立場でした。
ところが、その後は人口の多い中国マーケットに魅力を感じて、態度を一変させます。また息子の大麻事件のときには中国政府に減刑してもらい借りをつくり、徐々に中国共産党寄りの発言が目立つようになりました。
彼はとても戦略家で、2021年に行われた中国共産党結党100周年記念座談会では、かつてと真逆の立場を明確にしました。
「私は中国人になって光栄だが、共産党員がうらやましい。私も党員になりたい」(「朝日新聞デジタル」2021年7月12日)
そんな発言をしたので、香港市民や中国の識者たちの間では“共産党の犬”と呼ばれています。その分共産党には大切にされ、ジャッキーの出演作は規制の厳しい中国でも公開され、多大な興行収入を上げています。