※本稿は、松本哲(著)、本間龍介(監修)『楽しく遊びながら子どもの「発達」を引き出す本』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
空間把握が苦手な子は「距離が近い」
コミュニケーションの問題というと、上手にしゃべれない、滑舌が悪い、言葉が出ないといったトラブルがその代表的なものです。これらには、口まわりの反射がかかわっているのは想像できると思いますが、実はそれだけではありません。
原始反射(編集部注:主に乳児期に見られる反射。成長とともに運動機能が発達していくにつれて自然に消えていく)の中のATNRもコミュニケーションにかかわってきます。ATNRとは第1回でも触れた通り、非対称性緊張性頸反射といって、頭を左右どちらかに向けると、向けた側の手足がまっすぐ伸びて、反対側の手足は内側に曲がってしまう反射です。これが残っている子どもは、空間把握が苦手なので人との距離感がとりにくく、距離がとても近かったりします。
教室で走っていると、指導員にぶつかってくることもあります。明らかにぶつかっているのに、本人はまったく気づかないこともよくあるので、子どもにわかるように伝え、認識させてあげる必要もあります。
物理的な距離だけでなく、コミュニケーションにおいても、人との距離が近い、つまり、人に対する警戒心があまりない子も多いのです。警戒心がないと、結果的に、物理的な距離も近くなります。
たとえば、初めて会った指導員に対しても、「あれ、前に会ったことあったっけ?」というくらい、とてもオープンです。オープンなのは悪いことではありませんが、距離が近いことによってトラブルが起こることもあります。
「原始反射」が何に表れるかは、個人で異なる
コミュニケーションには、原始反射のベースであるモロー反射(編集部注:大きな音を立てたときなどに、赤ちゃんがビクッとして両手を広げて抱きつくような動きをする反射)も深くかかわっています。モロー反射が残っているために緊張と不安が強く、母子分離ができない、ほかの人への不安からコミュニケーションがとれないこともよくあります。
警戒心がなくオープンな子もいれば、母子分離ができず不安な子や人見知りする子もいる。一見すると矛盾しているようですが、原始反射が何に対して表れるかは一人ひとり違います。指導員に対して警戒心がない子は、「大人のほうが安心」と思っている子だったりします。とくに複数の子どもがいる教室の中では、指導員や先生などの大人は、まるでお母さん、お父さんのように自分を守ってくれる存在と映るのでしょう。
また、感覚過敏がコミュニケーションに影響する例もあります。「耳まわりを触ってほしくない」という子がいて、髪をカットするのも大変。耳かきもさせてくれないので、耳垢がたまっていました。耳を塞いでしまうほどたまっているので、指導員の指示が聞こえないことがありました。
耳鼻科に連れて行ったところ、耳垢がカチカチになっていたそうです。その子は発語も遅かったので、おそらくよく聞こえていなかったのでしょう。耳垢をとって聞こえるようになってからは、発語が追いついてきました。
なお、口まわりの反射は手の反射(掌握反射)ともつながっています。手がちゃんと使えていない子は、発語が遅れるなど、関係が深いといわれています。