エンタメを制限する「日本版フィンシン・ルール」
第2に「日本版フィンシン・ルール」の導入。これによってフジに限らず民放テレビ局のエンタメ企業化を制限するのだ。制度改革であるだけにファイアウォール以上に大きな影響を及ぼす。
個人的にフィンシン・ルールを知ったのは20年以上前のこと。ソニーの一時代を築いた故大賀典雄氏にインタビューしたとき、「テレビ局は日米で全然違う。コンテンツ制作はハリウッドがやっているから」と聞かされたのだ。
大賀氏はハリウッドに詳しかった。社長時代にソニーによる米コロンビア映画(現ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)買収を主導したのだから、当然だった。
大賀氏が念頭に置いていたのがフィンシン・ルールだ。米連邦通信委員会(FCC)が1972年に施行した規制であり、ABC、CBS、NBCという3大テレビネットワーク(日本の民放キー局に相当)の強大化阻止を狙いにしていた(同ルールは1990年代前半に廃止)。
これによって3大ネットは自前のエンタメ番組制作を制限され、ハリウッドの映画スタジオからコンテンツを調達するようになった(著作権は映画スタジオに帰属)。必然的にスポーツと並んで報道を独自コンテンツの目玉にしなければならなくなり、報道機関としての性格を強めたのである。
だからなのか、3大ネットの局員は「報道機関に勤めている」という意識を持っている。ドラマなどのエンタメ番組制作を夢見て3大ネットの門戸をたたく人はあまりいない(そのような人はハリウッドへ行く)。
そんな背景があることから、3大ネットでは優れた報道番組が生まれる。代表例は、日本の報道番組にも影響を与えたCBSの調査報道番組「60ミニッツ」だ。取材チームは経験豊富なジャーナリストで構成され、エンタメとは一切縁がない。
ワインスタイン事件との決定的な違い
フジテレビの女性トラブルは有力プロデューサーを巻き込んだ騒動であり、2017年にアメリカで起きた「ワインスタイン事件」と似ている。
同事件では、プロデューサーのハーベイ・ワインスタイン氏がカネと権力を武器にして、性的暴力やセクハラに手を染めていたことが発覚(同氏は実刑判決を受けて服役中)。女性たちがセクハラや性被害の経験を告白する「#MeToo運動」のきっかけとなった。
一方、フジテレビではプロデューサーが「女子アナ上納接待」への関与を疑われている。
両氏の共通点は、プロデューサーという肩書だ。ただし違いが一つある。ワインスタイン氏は3大ネットではなくハリウッドでキャリアを積んだ「ハリウッドマン」であるのに対して、“上納プロデューサー”はフジテレビの局内で出世してきた「テレビマン」なのである。