電波の利用にふさわしいのは報道機関
フジテレビが100%エンタメ企業だとしたら、電波の独占を認められるべきだろうか。
もちろん「エンタメ=公共性の欠如」ではない。低俗なお笑いは論外としても、人々に感動を与えるドラマもあれば、教育的・文化的に優れたバラエティ番組もあるだろう。
それでも電波の利用者にふさわしいのは、報道機関であってエンタメ企業ではない。報道機関は災害時に高い公共性を発揮するし、調査報道によって民主主義を支える役割も担っている。
フジテレビに報道機関としての自覚を持たせるためには、「芸能界との癒着を断ち切れ」「忖度なしに報道しろ」といった精神論を説くだけではだめだ。構造問題に切り込まなければ同様の問題はまた起きる。
処方箋としては大きく二つある。
第1にコーポレートガバナンス(企業統治)の改革。具体的には報道とエンタメ両部門の分離だ。
報道部門が独立していないという問題
エンタメ部門を別会社にすればすっきりするが、一筋縄ではいかない。とりあえず両部門を隔てるファイアウォール(業務の壁)を築けばいい。
フジテレビに限らず日本の民放テレビ局は報道とエンタメをごっちゃにしている。両部門の人事異動を日常的に行っているし、採用時にも報道とエンタメを区別していない(NHKは報道とエンタメを区別している)。報道番組のキャスターにタレントを起用することもある。
ここには「報道もエンタメも同じ番組制作」という考え方がある。求められるスキルは全く違うのに、である。
そのため、私が個人的に知っている範囲でも、ドラマ制作希望で入社したのに報道に配属されて落ち込む新卒局員もいれば、報道部門で記者をしていたのにバラエティ番組を担当させられて退社する中堅局員もいる。
報道部門がエンタメ部門との人事交流をストップし、独自に人材育成・採用に取り組めば、独立性を高められる。
理想的には報道部門は局内で治外法権的な地位を確保するべきだ。エンタメ部門からはもちろんのこと、経営陣からも介入を受けないようなガバナンス体制を築くのだ。こうすれば自局のスキャンダルについてもきちんと報道できる。
フジテレビの報道部門が特別取材班を立ち上げ、「フジテレビのドン」と呼ばれる日枝久相談役のほか港氏や中居氏、被害女性らを徹底取材し、スクープを放つ――こんな展開も可能になる。自局で起きた騒動だから報道機関としては圧倒的に有利であるはずだ。