「米国が再び偉大に」トランプ氏のシナリオ
加えて、トランプ次期大統領は欧州連合(EU)に対して、米国の貿易赤字の削減のため米国産の石油や天然ガスを買うよう要求し、受け入れられない場合は関税を課すと脅している。
これを受けてEUのフォンデアライエン委員長はトランプ氏に対し、ロシアから輸入している液化天然ガス(LNG)を米国産に切り替えることを検討すると伝えた。
また、欧州は過去3年にわたり米国産原油の最大の買い手となっている。トランプ次期大統領がロシア産原油の価格上限をさらに引き下げ、制裁をかいくぐって原油を輸出する「影のタンカー船団」を取り締まれば、ロシアの国家財政が圧迫されて米国が出す停戦条件の多くをのまざるを得なくなる。
一方、対EUの原油・LNG輸出を行う米国では化石エネルギー産業の利潤が膨らみ、対ロシア軍備を増強するEU諸国への米国製兵器輸出が増え、米国内の雇用や賃金が増加して「米国が再び偉大になる」わけだ。
「過去100年間で初めて」の称号を手に
翻って、トランプ次期政権が示す和平条件にロシア・ウクライナ双方が合意する保証はなく、受け入れられるにしても数カ月から1年ほどの時間を要するかも知れない。だが、両国とも3年にわたる戦争で継戦能力がギリギリの状態に達している。
ウクライナにおいても、「平和のため領土面の譲歩を受け入れる」と回答するウクライナ人の割合が2024年10月の32%からトランプ再選後の12月には38%に増加し、「領土面の譲歩は受け入れられない」と回答する割合は58%から51%に低下したと、キーウ国際社会学研究所が実施した世論調査が明らかにしている。
こうした中、プーチン・ゼレンスキー両氏が「トランプ和平」を受諾する可能性は、皆無ではないだろう。
トランプ氏が和平を成立させることができるかは不明だが、もし成功すれば、「過去100年間で初めて、欧州大陸における大きな紛争を交渉によって終結させた人物」(コロンビア大学国際公共政策大学院のステファン・セスタノヴィチ名誉教授)として、そのレガシーを不動にできるかもしれない。