停戦でロシア経済は回復するのか
だが極論すれば、世界にとり本当に大事なのは、ウクライナにおいて誰が勝利するかではない。むしろ、ウクライナ侵攻の結果としての中長期的なロシア社会・経済・政治の不安定化が関心事であろう。
プーチン氏が3年前に開始した「特別軍事作戦」の目的は、あわよくばウクライナ全土の併合であったが、それは現実的には不可能だ。他方、「ウクライナに失地回復と念願のNATO加盟を断念させる」という次善の目的を達成できれば、ロシア国民に対しては一応「戦勝」だと宣伝できよう。
だが停戦になっても、すぐには西側の経済制裁が解除されず、財政の逼迫とインフレが悪化する可能性が低くない。カンフル剤として外資導入を試みようにも制裁で思うに任せず、西側資本も現体制を信頼せず二の足を踏むだろう。ロシアが原油や天然ガスを安く売ろうとしても、多くの西側の買い手はロシアへの依存を避けようとすると思われる。
ウクライナは第2のアフガニスタンか
加えてロシアは、その領土的野心を警戒するようになったNATO諸国の軍備増強に対抗するため「準戦時経済」を維持しなければならない。軍縮により浮いた軍事費を平和目的に割り当てる「平和の配当」は、もはや期待できない。
こうして軍事支出が高止まりしてバラマキができなくなれば、やがて国民の生活が苦しくなって民心が揺らぐ。
国力を極度に消耗させた日露戦争、第一次世界大戦、アフガニスタン戦争の結果として、ロシア(ソ連)政治は不安定化し、ロシア革命やソ連崩壊へつながった。プーチン大統領のウクライナ侵攻は、領土拡大という「戦勝」をもたらしたとしても、オチとしては1991年のソ連崩壊の遠因となったアフガニスタン侵攻(1978年~1989年)の二の舞になりかねないのだ。
この中長期的な地政学的文脈において、ウクライナ侵攻を「第2のアフガニスタン」としたくないプーチン大統領が早期停戦に動く可能性がある。栄光のソ連再興を目指して実施したウクライナ侵攻が、ロシアの不安定化や崩壊につながれば本末転倒であるからだ。