ロシア経済は好況も実態は火の車

だが、勝利を続けながらも、無理に無理を重ねた戦時体制のため、ロシアの社会と経済も疲弊している。好況に沸きながらも、同時に消耗戦で累積した損害がボディーブローのように効いており、深層ではロシアもまたギリギリの状態にある。

具体的には、ウクライナからの小刻みな領土奪取は、毎日1500人を超えるとされる甚大なロシア兵の死傷と莫大な兵器の損失によってのみ可能になっている。ロシア軍の累計の人的損害は60万〜73万人強にも達すると推定される。だが、30カ月の戦闘を経てなおドネツク州全体さえ取れていない。

日々強化される西側諸国の経済制裁で主力輸出品の原油・天然ガス販売による財政立て直しが妨害される中、ロシア政府は戦費調達に苦労している。

国防費は2022年の5兆5000億ルーブル(約8兆2500億円、1ルーブル=約1.5円)から2025年予算の13兆5000億ルーブル(約20兆円)に膨張し、国家予算の32.5%を占めるまでになっている。

モスクワの聖ワシリイ大聖堂
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シリアの政変で露呈した「張り子のトラ」

2025年のロシア連邦予算は、1兆1734億ルーブル(約1兆7601億円)の財政赤字を見込み、2022年から4年連続で赤字になる見通しだ。さらに、2026年、2027年の予算計画でも赤字を見込んでいる。

軍事が最優先され、国民をなだめてきたバラマキの財源も限界に達している。加えて、兵役を嫌い、母国を捨てて海外に逃亡する若者や専門家も急増。その数は100万人を超えたと見られる。

あと一押しで勝利できるにもかかわらず、兵員を補強するための大量動員はロシア国民の猛反発を受けることが確実なため、プーチン大統領は踏み切れずにいる。

こうした中、戦時過熱経済による9%超えの狂乱インフレを抑制すべく、10月にロシア中央銀行が政策金利を21%という驚異的な水準にまで引き上げた。これにより、事業資金借り入れのコストがかさむロシア企業にとっては、ますます利益が出しにくくなった。さらに、本業のモノづくりや商取引に投資するよりも、資金を銀行に預けておくほうがもうかるという異常な状態となっている。

そのため、好景気のロシア経済は徐々に冷え込み始めている。事実、ロシアの株価平均は過去1年で20%も下げた。経済活動の停滞と物価の持続的な上昇が同時進行する、恐ろしい「スタグフレーション」に突入する可能性が高いことを市場は見越しているのだ。

直近12月の中東シリアの政変では、ロシアがウクライナ侵攻継続に精一杯で、長年支援してきたアサド独裁政権を支えるだけの軍事的・経済的な余裕を失っていたことが露呈した。ロシアの大国としての地位や実力が「張り子のトラ」に過ぎないことが、世界各国に見透かされてしまったのである。