世界中で温暖化の深刻な影響を最も受けている国の1つがカナダである。駐カナダ日本国特命全権大使の山野内勘二さんは「山火事の頻発、内陸部での干ばつ、沿岸部での洪水、北極地域の氷の溶解などでカナダの国土は悲鳴をあげている」という――。

※本稿は、山野内勘二『カナダ 資源・ハイテク・移民が拓く未来の「準超大国」』(中公新書)の一部を再編集したものです。

環境の概念
写真=iStock.com/SB
※写真はイメージです

温暖化対策の優等生が直面する2つの挑戦

カナダは世界有数の化石燃料生産国でありながら、積極的に温暖化対策を進めている。GHGの世界シェアを見れば、カナダの排出量は全体の1.5%にまで縮小。新エネルギー分野の発展に加え、トルドー首相、ギルボー環境・気候変動大臣らが世界に発する明快なメッセージも合わせて見れば、カナダは温暖化対策の優等生と言っていいだろう。

しかしながら、事はそう単純ではない。温暖化をめぐってカナダは、2つの厳しい挑戦に直面している。

まず、温暖化の深刻な影響だ。山火事の頻発、北極地域の氷の溶解など、カナダの国土が悲鳴をあげている。世界中で温暖化の深刻な影響を最も受けている国の1つだ。

次に、政治だ。自由で多様性を重んじる民主主義を貫徹しているからこそ、意見の集約は容易ではない。国内業界から反発を受け、野党から攻撃を受け、州・準州から法廷闘争を挑まれている。

米国の3倍、世界平均の2倍の速度で進む温暖化

2019年4月、環境・気候変動省が公表した研究結果によれば、過去150年間でカナダの気候が温暖化したことはほぼ確実で、その原因は主として人間の活動による。この結論自体は、さして驚くことではない。すでに、世界中の科学者が、産業革命後の温暖化についてその関連を発表している。

しかし、この発表の核心は、カナダにおける年間平均気温の上昇の速度だ。カナダ全体で1.7度、北極圏に限ると2.3度の上昇である。NASAの調べでは、年間平均気温の上昇は米国で0.56度、世界平均では0.8度だ。要するに、カナダの温暖化は、米国の3倍、世界平均の2倍の速度で進んでいる。

実は、緯度が高い程、低緯度の地域よりも温暖化のスピードが速いことは、これまでの世界各地の観測から判明している。この現象は「極域増幅(Polar amplification)」と呼ばれる。二酸化炭素濃度の高低によって生じる気温変化が、世界平均に比べて北極域で大きくなることは、1970年代にはコンピュータで予測されていたが、2010年には科学的に実証された。

そして、気温の上昇がカナダの気候や環境に深刻な影響を与えていることが明らかになっている。山火事、洪水、熱波、干ばつなどの極端な現象だ。