「がん細胞の増殖」に関係がある
このようなことが、最近、がんに対する免疫において示唆されています。
がん細胞が体内にできてくると、免疫細胞であるナチュラルキラー(NK)細胞やT細胞がそれを認識してがん細胞を殺そうとします。
ところが、がん細胞の勢いが強すぎて免疫系がうまく対処できないと、免疫系の中でも特にT細胞がストレスを受けて疲れてしまい(疲弊してしまい)、殺せるはずのがん細胞を殺せなくなることがあります。
疲弊T細胞という攻撃能力が低い細胞ができてしまうのです。いったん疲弊したT細胞はがんからの刺激を受けても疲弊したままで、機能が戻りません。その結果、がんが免疫との戦いに勝つようになります。
がんの免疫療法における“重大な発見”
マウスの数種類のがんでは、がん組織内で疲弊T細胞が実際に増えていて、特に交感神経線維(*)の周りで大きく増えているようです。交感神経末端からはカテコラミンが多量に放出されるので、疲弊T細胞ができやすくなっているのでしょう。
カテコラミン刺激を実験的に除去したり、あるいは疲弊T細胞自体を除去したりしてやると、がんに対する免疫細胞の勢いが戻ってきて、がんに対する免疫療法の効果が大きく上がることから、がん組織で過剰なカテコラミン刺激によって疲弊T細胞ができることが、結果的にがん細胞が増殖する理由のひとつとなっているように見えます。
もしヒトでも同様のことが起きているのであれば、疲弊T細胞を作らせないようにすることが、がんの免疫療法の成否を分けることにつながるのかもしれません。これは、がんに対する新たな免疫療法開発のためにきわめて重要なことになるはずです。