大学への評価はどうあるべきなのか。大学改革支援・学位授与機構教授の竹中亨さんは「社会的インパクトを生み出す取り組みを大学が行ったか否かを運営交付金の配分に反映させる方針になっている。だが、これはあまりに前のめりの議論だといわざるをえない」という――。

※本稿は、竹中亨『大学改革 自律するドイツ、つまずく日本』(中公新書)の一部を再編集したものです。

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「メリハリ」は業績向上をもたらすか

日本の高等教育に関する政策文書には、随所に「メリハリをつける」という文言が出てくる。大学への運営費交付金に関する財務省方面の文書など、その好例である。すなわち、配分にあたってもっとメリハリをつけ、KPIで成果をあげている部署は報奨として手厚く遇するが、そうでない所は思いきって予算を削るべきだという。

逆にいえば、従来はバラマキ的であり、そのため大学に対する刺激に欠け、ひいては国全体の研究力の低迷につながったと考えるわけである。この主張は一見もっともらしく見える。だが実際、どの程度意味があるのだろうか。

まず、そもそも「メリハリ」の語で一括するのが議論として雑である。一般に、大学予算を成果に応じて配分しようとする場合、期待されるのは、業務への動機づけを高めることで業績の向上をもたらす(業績刺激)効果、大学の行動を望ましい政策的方向へと誘導する(行動誘導)効果、基準を明確化することで配分を透明化・正当化する(配分透明化)効果などだろう。

成果連動は「教育・研究上の業績」を刺激するのか

このうち、業績刺激効果については、あらためて論じるほどのことはない。というのも、研究者の大勢はこれに懐疑的だからである。筆者はこれまで、成果連動が明白に教育・研究上の業績を刺激すると確認した研究を見たことがない。研究者だけでない。ドイツでは、「学術審議会」という、政府の学術政策立案のための公的諮問機関すらもこれに否定的な見解である。また、ドイツでの調査によれば、数値指標は行動誘導面でも効果が乏しいことが知られる。結局、ある程度効果が期待できそうなのは配分透明化だけである。つまり、成果連動の意義は全面否定されるものではないにしても、何をねらってメリハリをつけるのかで、話は変わってくるわけである。

次に、「メリハリ」の先に何を期待しているのかもはっきりしない。どの効果を念頭に置くにせよ、およそ成果連動配分は、大学がそれをうけて短所を是正し、長所を伸長する行動をとると期待してのことである。そのためには当然ながら、当の大学がまず自らの長短所をわかっていなければならない。この点、現行の制度は不思議である。