急激な温度変化で血圧が大きく変動
寒い冬の夜、温かいお風呂が恋しい季節になりました。しかし、この至福の時間には意外なリスクが潜んでいます。それは「ヒートショック」です。
ヒートショックとは、急激な温度変化によって血圧が大きく変動し、心臓や血管に深刻な負担をかける現象を指します。特に高齢者や持病を持つ方にとっては、最悪の場合、命に関わる事態に発展することもあります。なぜ、身近なお風呂でこのような危険が生じるのでしょうか。その原因と対策を詳しく解説します。
65歳以上では「交通事故の死亡者数」の約3倍
高齢化社会の進展に伴い、溺死や溺水の事故件数は増加しています。厚生労働省の「人口動態調査」によると、65歳以上の高齢者が「不慮の溺死および溺水」により死亡するケースは年々増加しており、令和4年度には6307人が「浴槽内での(及び浴槽への転落による)溺死及び溺水」により亡くなったとされています。これは「交通事故」による死亡者数(2154人)の約3倍にもなります。
また、働き盛りの世代(15歳~64歳)においても浴槽内での溺死が発生しており、この世代の死亡者数の10%弱を占めています。
2023年に発表された「日本の高齢者における入浴、転倒、誤嚥による事故死の最新動向に関する研究」では、冬季における浴槽内溺死が顕著に増加しており、これがヒートショックと密接に関連していると指摘されています。
血圧変動が心臓や脳に大きな負担をかける
では、ヒートショックがどのようにして起こるのか、そのメカニズムを説明します。
急激な温度変化は、血圧の大きな変動を引き起こします。たとえば、暖かい部屋から寒い脱衣所や浴室に移動すると、外気の寒さに対応しようと自律神経が働き、血圧が急上昇します。その後熱い湯に浸かると、今度はその熱さに対応しようとして血管が広がり、血圧が急降下します。この血圧変動が心臓や脳に大きな負担をかけ、脳梗塞や心筋梗塞などの深刻な病気を引き起こすリスクを高めます。