自分の体の健康は自分でコントロールする

これまで年齢を意識することがなかったが、80歳になったときは「80代の先輩たち」の顔を思い浮かべて、自分の年齢にショックを受けしまったという川邉さん。

「それでも、やっぱり年齢という数字を意識しすぎないでいてほしいですね。80歳だ、86歳だというのではなく、そのときの自分の健康状態で考えていけばいいんじゃないかしら」

結核を患った経験があるだけに、昔から健康には人一倍気を使ってきた。今は朝40分のウォーキングと40年続けている水泳が健康法だ。体調管理は、ホームドクターと相談しながら健康診断と東洋医学中心で行っているという。

オーガニックにこだわった時期もあったが、時代によって「良い」が「悪い」になったり、その逆もあったりするのを経験。今は自分にとっての「ほどほど」を見つけて、自分の体は自分でコントロールしてつくることを意識している。

「この歳になったら、あまりストイックなことはしなくてもいいのよ。長いこと自分の体と付き合っているのだから、自分の体のことは自分がいちばんよくわかっているはず。おいしいものを食べながら、自分なりに管理すればいいの」

「自分の体のことは自分がいちばんわかっているはずだから、自分なりに管理すればいいの」と、気負わない生き方を大切にする川邉サチコさん。
撮影=小林久井/近藤スタジオ
「自分の体のことは自分がいちばんわかっているはずだから、自分なりに管理すればいいの」と、気負わない生き方を大切にする川邉サチコさん。

ありのままの自分でいる心地よさ

年齢を重ねるうえで大事なことは、もうひとつある。自分の本音のまま生きることだ。自身は60代後半になってから、自分を取り繕うことよりも「素のままの自分でいること」に居心地のよさを感じるようになった。

「例えば、私は面倒くさくなると江戸っ子の“べらんめえ”口調になるんです。そのほうが生まれ育った環境で身についたものだから、居心地がよくてラクなんですよね。もちろん、今でも仕事ではあまり出さないようにはしていますが(笑)。でも、そうやって素のまま自分でいればいるほど、メンタルも安定するのは確かです」

80代でなお現役の美容家として精力的に活動する川邉さん。同世代、そして後輩世代の女性たちに「年齢に縛られず体が動くうちは一生働き続けたほうがいい」とエールを送る。

そのためにも、定年の60歳を迎える前から、60代以降でやりたいことを考えておいたほうがいいともアドバイスする。それは自分の好きなことであるべきだし、クリエイティブな要素があるほどシニアライフを楽しくしてくれる。

「歳を取ると、どうしてもチャレンジを怖がるようになります。でも、人生では、いくつになっても好きなことにチャレンジするほうが絶対いいと思います。条件をあれこれ並べて無理だとあきらめるのではなく、小さくやれる方法を探してみることが大切です」

そんな川邉さんが今、興味を持っているのは、大人が自ら自分を整えておしゃれになる基本を教える学校だ。それには対面でリアルにやりとりするのが必須だが、オンライン主流の現代において、どのような方法があるのかを思案しているという。

「今まで世の中に人生を楽しませてもらいましたからね。その恩返しという意味でも、まだまだやりたいことが尽きません」

先のことを心配ばかりではなく、自分の好きなことをして生きていく。そんな決意さえあれば、小さな好きが見つかって、一歩を踏み出すこともできるようになる。川邉さんのように「おもしろいこと」へのアンテナを張り続けることが、人生の枝葉を広げてくれるのではないだろうか。

(構成=工藤千秋)
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