彼らはまるで自動車のお医者さん

顧客が販売店に「走っていて変な音がするので見てください」と愛車を持ち込んだとする。販売店は顧客から問診した情報をもとに現象を再現させる。それに対して適切な対応が要求される。

しかし、風切り音のような、特定の条件でのみ発生する音もある。そういった場合、車を多治見サービスセンターに持ってくると、走行確認路があるから、そこで実際に走らせることができる。走行確認路は顧客から得た状況を再現するためのテストロードだ。

走行確認路
画像提供=トヨタ自動車
走行確認路

全国にある販売店、サービス工場は車における町のお医者さんだ。そして、全国各地の分室、多治見サービスセンターは地域の大病院だ。町のお医者さんが持っていない大型の診断装置を備えているから、たいていの不具合、故障は直すことができる。

松本は言った。

「車に雨漏りがするといったこともまれにあります。販売店だったら、ホースで水をかけて水漏れがするかどうかを確認するでしょう。しかし、ホースの水と実際の雨ではやはり違うから雨漏りを発見できないことがある。多治見には大がかりなシャワーテスターがありますから、さまざまな雨の状況が再現できます。豪雨や横殴りの雨も再現できます」

故障箇所だけ調べても見つからないことが多い

「また、2020年からはコネクティッドカーが増えました。つながる車ですね。走行データが取得・蓄積されているわけです。コネクティッドカーからのデータやGTS(故障診断装置)を使うことで、どういった乗り方をしていたかも含めてわかるから診断しやすい。

最新式の診断装置がそろっているのが多治見サービスセンターですが、診断に大切なのは装置や機械だけではありません。

何よりも大切なのはお客さまに聞くこと、そして、聞いたことを分析して事前の準備をすることです。多治見に車が来るまでは、実際に触ることができないので、お客さまや販売店の担当者から細かく様子を聞きます。そして、わからないところは関係部署に問い合わせをします。

僕自身は電気関係が苦手です。たとえば、ライトがつきっぱなしになった車があるとします。バッテリーからライトまでの導通路をすべてチェックしても原因がつかめなかったりします。良く調べてみると、まるで関係ないと思われるような箇所に小さな鉄の切り子が入っていて、電線をショートさせていたりすることもあるんです。

故障が起きた箇所とその周辺だけを調べていても、原因がつかめないこともよくあります。電気関係については、お客さまから話を聞いて、調べる前に設計部門に勉強しに行きます。そうしないと、どこが悪いのかはわかりません」

松本の話を聞いていると、彼は自動車の専門医なのだなと思ってしまう。