顧客の声を受けて「もっといいクルマを作る」

わかりやすい表現に直すと、開発している最中の車両からすでに走っている既存の車両までの品質を保証する。そして、車やサービス(整備、修理)について不具合、故障連絡(一般のクレーム対応のこと)が伝えられてきたら、原因を追究して直すことだ。

加えて、「正確かつ親切なアフターサービス体制の支援」、「高品質な補修部品をタイムリーに提供」することも品質保証部の仕事になる。

顧客からの声を頼りに「もっといいクルマを作る」ための部署であり、ユーザーにもっとも近い現場のひとつだ。

通常、トヨタ工業学園高等部を出た人間の大半は工場に配属される。また、専門部の場合は工場の保全部署が多い。それに対して、品質保証部へ行くのは高等部、専門部のどちらも各学年にたったひとりしかいない。自分から手を挙げるか、指名されるという。松本は自分から手を挙げた。

「はい、父親が品質保証部はいい部署だぞと言いました」

トヨタ社員
画像提供=トヨタ自動車
トヨタ工業学園高等部OBの松本康寛さん

父親が働いていた時代は、夜勤、休日出勤が多かった。父親としては息子に家族とのゆっくりした時間を持ってほしかったのだろう。そこで、工場現場ではなく、バックアップ部門へ行ったらいいと伝えたのだった。

杉田の場合は指名だ。理由はわからない。わたしが見たところ、徹底的に真面目だから。真面目そのものに見えるからだと思われる。

それぞれの理由で、ふたりは品質保証部へ配属された。

日本を走る車の5割近くがトヨタ系

品質保証部にいた時、ふたりはさまざまな不具合、故障に出合った。現在、日本の国土を走る車の数は約8250万台(2023年実績、「国土交通省 数字で見る自動車2024」より)。トヨタ(ダイハツ併せて)の国内シェアは約47%。

4割と見ても、3300万台のトヨタ車が走っている。それだけの人が車を操作しているのだから、不具合や故障は表れる。品質保証部はそうしたもののうち、販売店のサービス工場が対応できない難しい案件を解決してきた。

松本が忘れられないのはステアリングに直結する鉄の軸の不具合だった。

「部品の不具合で多いのは、新しい技術が入った箇所、あるいは開発時に評価が足りなかった箇所でしょうか。そういうところが壊れてしまい、お客さまにご迷惑をかけたことはあります。すみませんでした。

20年ほど前ですが、ステアリングを切る装置が油圧から電動に変わりました。今はもう重量の大きな車以外は電動です。電気で回すようにした初期のことでした。強い力でステアリングを回すと、軸の部分に強力な力がかかって軸の下部にある鉄の部分がねじ切れてしまった」