2025年NHK大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」の主人公は、江戸後期に活躍した版元の蔦屋重三郎(演・横浜流星)。その成功の秘密を調べた川上徹也さんは「蔦重は時代を読む嗅覚に優れ、浮世絵などで話題作を続々と世に出した。それでいて経営者としても堅実な一面を持っていた」という――。

※本稿は、川上徹也『江戸のカリスマ商人 儲けのカラクリ』(三笠書房・知的生きかた文庫)の一部を再編集したものです。

山東京伝作『箱入娘面屋人魚 3巻』中の蔦唐丸(蔦屋重三郎)、寛政3年(1791)、国立国会図書館デジタルコレクション
山東京伝作『箱入娘面屋人魚 3巻』中の蔦唐丸(蔦屋重三郎)、寛政3年(1791)、出典=国立国会図書館デジタルコレクション

大河ドラマの主役になった蔦屋重三郎のプロフィール

蔦屋重三郎つたやじゅうざぶろう(1750 - 1797年)

江戸出版界きってのヒットメーカー。通称「蔦重つたじゅう」。遊廓の吉原で生まれ、小さな貸本屋から江戸有数の版元(出版社発行人)に成り上がった。34歳の時、日本橋通油町(現在の中央区日本橋大伝馬町)に進出。「黄表紙」「酒落本」「狂歌絵本」「錦絵」などのヒット作を次々とプロデュースして、時代の寵児となりブランドを確立した。

しかし「寛政の改革」が始まると、風紀取り締まりも厳しくなり、やがて山東京伝さんとうきょうでんの酒落本が摘発され、版元の蔦重にも財産の半分を没収という厳罰が下される。

その後、喜多川歌麿きたがわうたまろ大首絵おおくびえの美人画や無名の新人絵師東洲斎写楽とうしゅうさいしゃらくの役者絵をプロデュースして復活するが、持病の脚気かっけが悪化し48歳で亡くなった。

現在、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)とその関連会社が運営する、レンタルビデオショップ「TSUTAYA」や「蔦屋書店」とは、創業者の血筋などのつながりはない。

蔦重は現代でいうとベストセラーを連発する編集者兼出版社社長

蔦屋重三郎(通称・蔦重)は江戸時代(安永・天明・寛政期)の出版界を代表するヒットメーカーでありカリスマ経営者です。小さな貸本屋から始まり、一代で江戸きっての有名版元(出版社発行人)に成り上がりました。

宣伝上手で時代の流れを読み取る嗅覚に優れ、数々の流行作家とタッグを組み、話題作を続々と世に出しました。それでいて、いわゆるクリエイターであったわけではなく、経営者としても堅実な一面を持っていました。現代でいうとベストセラーを連発する編集者兼出版社社長といったところでしょうか。

人の才能を見抜く力も抜きん出ていて、無名だった喜多川歌麿(「べらぼう」で演じるのは染谷将太)を発掘しデビューさせ江戸きっての人気絵師に仕立て上げました。晩年には謎の天才絵師・東洲斎写楽をプロデュースしたことで話題になります。蔦重の死後に大ブレイクする葛飾北斎かつしかほくさい曲亭馬琴きょくていばきん十返舎一九じっぺんしゃいっくなども、無名時代から活動をサポートしていました。

この記事では蔦重の「儲けのカラクリ」の詳細を見ていきましょう。