名リーダーは「ポジティブな期待外し」の達人である
●甲南大学特別客員教授 加護野忠男

松下幸之助さんや本田宗一郎さんなど、名経営者には結果としてユーモアを感じさせる発言や行動が多々あった。笑いを取ることが目的だったのではない。それをもたらしたのは「ポジティブな期待外し」である。ポジティブな期待外しとは、相手の期待を読み、それを超えることだ。

こんなエピソードがある。かつて松下電器産業(現パナソニック)はトヨタ自動車からカーラジオの価格に関して毎年3%のコストダウンを求められていた。ところがある年、突然3割のコストダウンを要求された。当然、事業部は無理だと回答するつもりだった。ところが松下さんは「設計を根本から見直せば、毎年の3%よりも3割のほうが簡単だ」と言った。これは期待外しの一つと言えるだろう。それによって、人々の視点転換を促したのだ。

期待外しをするには、全体状況を読み、その中で相手の気持ちを理解し、相手が何を期待しているかを瞬時に読み取ることが必要である。

笑いの絶えない職場では、メンバー同士が仕事の状況だけでなく相手の人間性をよくわかっているものだ。不躾に冗談を言い合うだけでは他人を傷つけてしまう場合がある。

ポジティブな期待外しは、顧客に期待以上の商品を提供し、従業員に期待以上の処遇を提供するためにも必要だ。

(浮田輝雄、笹山明浩=撮影)
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