イスラエルの社会学者が書いた書籍『母親になって後悔してる』への日本の女性たちの反響をまとめたNHK「クローズアップ現代」の番組書籍化された。NHK記者の髙橋歩唯さんとディレクターの依田真由美さんが取材した女性の一人は「『理想のお母さん』ならどうするかではなく、自分はどうしたいかを探すことで、以前より息がしやすくなったと話していた」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、高橋歩唯・依田真由美『母親になって後悔してる、といえたなら 語りはじめた日本の女性たち』(新潮社)の一部を再編集したものです。 

桜の通りを歩く母親と2人の子供の背面図
写真=iStock.com/monzenmachi
※写真はイメージです

「理想のお母さん」とのギャップ

自分の中で理想化してしまっているお母さん像があって、おいしいものを作るとか、お迎えは必ずいつも同じ時間に行けるとか、日中はたくさん遊んであげて、受け答えも柔らかいとか。それに自分が合っていないなって思うから苦しいのかもしれないです。
(村田沙綾さん インタビューより。2022年5月)

取材当時36歳だった村田沙綾さん(仮名)は、都内の企業でフルタイムの正社員として働き、夫と小学生の息子、保育園に通う娘の4人で暮らしていた。

村田さんは30歳で第2子となる娘を出産した。子どもがひとりのときにはどうにか乗り切れたこともふたりになると立ちゆかないことが増え、「ワンオペ」の限界を感じた。

計画を立ててやりくりしても、不測のことが起きれば思いどおりにはいかなくなることも多かった。ふたりの子どもを保育園に預けるようになった時期、息子が体調を崩したと連絡を受けた。

嘔吐する息子を連れ娘のお迎えに

仕事を切り上げて迎えに行き、娘を保育園に預けたまま息子を病院に連れて行った。その後、自宅に帰って体調が落ち着いていた息子は、娘を迎えに行く時間になる頃、体調が悪化し、嘔吐おうとを繰り返すようになった。

吐きまくる子がいるのにどうやって娘を迎えに行ったらいいんだろう、詰んだって思いました。夫に「8時まで預かってもらえるから迎えに行ってくれない?」って聞いたら、「会議だから無理に決まってるじゃん」って言われて終わりました。息子が苦しい思いをしているのに会議の方が大事なんだって思いました。結局、息子にはかわいそうなことをしてしまったんですけれど袋を持ってタクシーに乗せて、娘を迎えに行きました。

任せるって言われて私がしてきたことが、どういうステップがあってどう大変か、夫は分からないまま過ごしています。1日だけ代わって「簡単だ」って言われても違って、毎日つつがなくやることが大変なんです。そういう積み重ねで信頼関係はなくなっていったのかなと思います。