「不倫より減税」という擁護論が圧倒
政界の主役に躍り出た国民民主党の玉木雄一郎代表が、不倫スキャンダルでいきなり転んだ。総選挙で手取りを増やす「減税」を掲げて躍進し、公約の実現を自公与党に迫る矢先、冷や水を浴びせられた格好だ。
玉木氏が総選挙前の7月に元グラビアアイドルと高松市のホテルで密かに落ち合う様子や、総選挙直後に東京・新宿で密会する一部始終をカメラで捕らえた週刊誌の不倫スクープはたしかに衝撃的だった。玉木氏は即日に緊急記者会見をして事実関係を認め謝罪する一方、所得税を課せられる「年収103万円の壁」を「178万円」に引き上げて手取りを増やすという目玉公約を実現させる決意を改めて表明し、代表に踏みとどまった。
東京育ちの妻を地元・香川で自らの両親と同居させたうえ、選挙区でも奔走させてきたのに、それを裏切る背信行為に批判が噴出したのは当然だろう。まして総選挙前後の重要局面である。停滞する自公政権を突き動かす新たなスターの誕生に期待した多くの有権者を落胆させたのは間違いない。
総選挙で議席を4倍に増やして政界のキャスティングボートを握った国民民主党が玉木氏の不倫スキャンダルで失速すれば、過半数割れした自公政権に与党でも野党でもない立場から次々と政策を要求してのませていく新たな政策決定システムはあっけなく崩壊してしまう。
政治家が不倫スキャンダルで失脚する――。これまで何度も見せつけられてきた光景が再び繰り返されるのか。
ところが今回はやや様相が違う。たしかに玉木氏の不倫にはマスコミを中心に風当たりが強い。けれどもネットでは若者・現役世代を中心に「不倫より減税」という擁護論が圧倒し、世論は真二つに割れているのだ。
「政治家としての責務」か「プライベートなスキャンダル」
玉木氏は総選挙後、「103万円の壁」を「178万円」へ引き上げる公約について「100%これをのまないと1ミリでも変えたらダメだという気はない。交渉ですから」と柔軟な姿勢を示していた。これを受けて自民党には140万~150万円程度への引き上げで折り合う妥協案が浮上していた。ところが玉木氏は不倫スキャンダル発覚後、一転して「譲るつもりはまったくない」「必死の交渉が始まっていく」と態度を硬化させた。公約実現を理由に代表に踏みとどまった以上、一歩も引けなくなったのだ。
103万円が178万円へ引き上げられれば、年収300万円の人で手取りが11.3万円増える。年収600万円なら15.2万円増だ。30年以上にわたる日本経済の低迷にあえぐ今の若者・現役世代が政治家に求めるのは、倫理観よりも実現力なのだろう。
玉木氏が不倫スキャンダルを乗り越え、「178万円」への引き上げを実現して勢いを取り戻せば、「政治家の不倫史」に新たな1ページを刻むことになる。政治家に求められる「男女関係の倫理基準」は大幅に緩和され、「政治家としての責務」と「プライベートなスキャンダル」を切り分ける「新たな判例」となるかもしれない。