始業前に仲間と自主的に英語の勉強会を開いたり、希望者だけが集まって朝のミーティングをしたりという場合は上司の指揮命令下にあるとはいえませんから、残業代は請求できません。誰もいないオフィスで仕事がはかどるから、という理由で、朝一番に出社する場合も無理でしょう。一方、上司も含め、全員参加が義務付けられている就業時間前の朝礼の場合は、指揮命令下にある仕事といえますから、朝礼に参加した結果、1日の勤務時間が8時間を超える場合には、残業代を請求できます。

持ち帰り残業の場合、在宅で仕事するわけですから、上司の指揮命令下にはありません。残業代支払いの対象になるためには、上司からの明示、あるいは黙示の指示が必要です。つまり、働く場所はオフィスにせよ、自宅にせよ、それ以外の場所にせよ、残業代を支払ってでも、その仕事を終わらせ、あるいは進捗させなければならないことを上司が認識していなければならないのです。それがなくて、家のほうが落ち着くから、時間をかけてじっくりやりたいから、という理由だけで、家に仕事を持ち帰って取り組んでも、残業代は支払われません。もちろん、やむにやまれず、持ち帰り残業が必要になる場合もあります。たとえば、妻も働いていて、週に何度か、終業時刻後はすぐに帰宅して子供の面倒も見なければならないなどと、理由をしっかり説明し、家での残業を許可してほしいと、上司の確認を取ればいいのです。その場合、当然のことながら、正味の仕事時間の計測を求められるでしょう。

労働者が、自宅での長時間残業も含めた過重な仕事が原因と見られる重篤な病気を発症、あるいは死亡してしまい、労働者や家族や遺族が労災認定を求めて裁判を起こす例は深刻です。上司による指示はなかったものの、業務量が膨大であれば、実質的に黙示の指示があったとして、労災認定を認めて労働者側を勝訴させたとしても、労災事件の経緯はいたたまれない気分にさせられます。人間、命あっての物種です。持ち帰らなければ終わらないほど、仕事が過重な場合は上司に相談すべきです。

(構成=荻野進介 撮影=的野弘路)
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