サービス残業は依然として減っていない実態が明らかになった。厚生労働省が今年10月に発表した調査結果によると、労働基準監督署の是正指導を受け、2006年度に100万円以上の不払い残業代を支払った企業数は、前年度に比べ10%増え、1679社になった。支払った残業代の総額は約227億円。企業数は調査を開始した01年度から一貫して増加、過去最多を記録した。
しかし、これとて“氷山の一角”かもしれない。森岡孝二・関西大学経済学部教授の編著『格差社会の構造』によると、06年の1人当たり年間サービス残業は247時間、同じく年間不払い賃金は60万8238円、一般常雇全体の年間不払い残業賃金の総額は約26兆円という試算もある。これが本当なら、日本の国家予算・約80兆円の3分の1に当たる金額が、本来もらえるべき労働者に渡っていないことになる。
その一方、労働者が正当な権利を主張し、断固闘うという動きも出始めている。その先駆けとなったのが、消費者金融・武富士を舞台にした残業代不払い事件だ。
この事件は01年、元武富士男性従業員の法律相談から始まった。「残業代と退職金が支払われていないので、何とかしてほしい」との訴えをきき、3人の弁護士で弁護団を結成、民事訴訟を起こすとともに、労働基準法違反で刑事告発した。このとき弁護団に加わった河村学弁護士は、当時を振り返ってこう説明する。
「武富士のケースは、明らかに労働基準法37条に規定された割増賃金の支払い義務違反。同社の男性従業員は、平日は午前8時から午後9時まで働かされ、休日出勤も含めると時間外労働は、月100時間を超えるのは当たり前の状況でした。それを個別に立証できれば、不払い賃金を取り戻せると考えました」
しかし立証は困難を極めた。すでに厚労省が1990年代後半から労働時間の限度や把握など、使用者が講ずべき措置や基準を相次いで策定したにもかかわらず、武富士ではタイムカードすら導入していなかった。そこで河村弁護士らは、労働時間を立証するものとして、社員が債権取り立て等のために行っていた電話記録や防犯装置の解除・設定などの電磁記録を取り寄せようとした。が、顧客情報など企業秘密を盾に抵抗されたという。