結局、刑事告発を受け、大阪労働局が強制捜査に踏み切ることで事態は一転する。原告の男性をはじめとする同社の不払い実態の解明が進み、民事裁判は03年2月、不払い残業代のほぼ満額を武富士が支払うことで和解。刑事のほうも、同年7月に在籍従業員および元従業員、およそ5000人に対して約35億円もの巨額な不払い残業代を支払うことで不起訴処分になるという決着をみた。

労働基準法に定める原則的な「残業」の種類と内容とは?

労働基準法に定める原則的な「残業」の種類と内容とは?

とはいえ、問題のすべてが解決されたわけではない。不払い残業代については賃金債権の消滅時効が2年なので、過去2年分しか取り戻せないからだ。この点、広島高裁が07年9月4日、時間外勤務手当の未払いをめぐって争われた事案で、賃金未払いを不法行為(民法709条)と認定し、損害賠償は民法の請求権時効3年を適用する判決を下している。だが、それでも3年分だ。依然、労働者側に不利であることは間違いない。

そもそも賃金不払いは、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」(労基法119条)に処せられる立派な犯罪行為。すべての経営者が、しっかり認識すべきものなのだ。また従業員側も、自分の身を守るためには、最低限の法律知識を習得し、理論武装する必要がある。

「まず、自分が勤める会社の就業規則や労働契約書の類には、必ず目を通すべきです。また不払い残業代を勝ち取るための防衛策としては、日常的に使っている手帳に出退勤時刻を克明に記入すること。パソコンがあれば、業務内容をハードディスクに記録として保存しておくことも有効となります」(河村弁護士)

(ライヴ・アート=図版作成)