さまざまな産業分野で国際競争が過熱し、日本も新興国に激しく追い上げられている。その陰で、日本企業から中国や韓国などの海外企業への不正な技術流出の問題が深刻になっている。技術流出では、企業OBを介して海外企業に情報が流れるケースが最も多い。なかでも急増しているのが、社員が退職前に社内の技術情報を持ち出すパターンだ。

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営業秘密に関する法律上の壁と対応策

背景には情報の電子化がある。かつては図面や文書をコピーして持ち出す形態が主流だったが、パソコンが個人単位まで普及して、社内の情報源にアクセスさえできれば、誰でもデータを大量、かつ容易に引き出せるようになった。

また“情報”を盗んでも基本的には窃盗罪(刑法235条)を適用できないことも、電子情報の流出に拍車をかけている。刑法で窃盗の対象と想定しているのは有体物(形のある物)である。コピー(社有物の紙)を無断で持ち出せば、窃盗罪になるが、無体物(形のない物)である情報を私物のCDなどに転写しても窃盗罪にはならない。

技術流出に歯止めをかけようと、不正競争防止法による「営業秘密侵害罪」の適用が広がり、流出した情報使用の差し止め請求や損害賠償請求をしやすくなった。しかし、あまり実効が上がっていない。情報が営業秘密と見なされるには、秘密管理性(秘密として守られている)、有用性(経済的価値がある)、非公知性(世間に知られていない)の3要件の立証が必要で、ハードルが高いからだ。業務の円滑化で厳格なアクセス制限をしていなかった場合、「秘密管理性がなかった」と反論されてしまう。